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ライオン・コーポレートブランド戦略室の阿曾氏に聞く、ライオンのパーパス策定の背景とこれから。

更新日:4月14日

『「愛の精神の実践」を経営の基本とし、人々の幸福と生活の向上に寄与する』を社是とし、2021年に「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」というパーパスを明瞭化されたライオン株式会社。

習慣づくり&人々の毎日、という「ライオンらしさ」がとてもよく現れている良いパーパスだね!とSMO社内で話題になり、早速、コーポレートブランド戦略室長阿曾 忍さんにお話を聞きに行きました。


(インタビュー:SMO 齊藤三希子)

 


齊藤:「愛の精神の実践」というかつてからの理念がある中で、パーパスを策定された背景をお聞かせいただけますか?


阿曾:ライオンでは2018年に「ReDesign」というパーパスを策定しています。パーパスって「三方よし」というような解釈にもなると思うのですが、ビジョンやミッションって、どうしてもライオンが主の一人称の考えになってしまうので、もっと「社会に存在する意義」を明確に打ち出していくために、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」と2021年にパーパスを明瞭化しました。

その背景ですが、日用品メーカーという枠にとどまらず、習慣を創造する企業としてパーパスを起点にしようということで、2018 年にパーパスを “ReDesign”という形で打ち出しています。その頃も、「習慣」というキーワードは使っていたんですが、ReDesignの解釈が難しい部分もあって、パーパスをより分かりやすく「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」と明瞭化しました。その過程で、ライオンってどういう会社なのかプロジェクトのメンバー皆で内省してみたのですが、世の中に歯みがきによる口腔の衛生習慣や手洗いによる清潔衛生習慣を定着させてきていて、ライオンの存在自体がCSV企業じゃないか!って。習慣づくりを通じて消費者に単に寄り添うだけじゃなく、消費者に価値を提供し続けることで自ら市場の創造にトライして、イノベーションを起こしてきたんだって。みんな意外と気づいていないんですよね。


齊藤:やっているほうも無意識で、気づかないんですね。


阿曾:それと消費者も当たり前に定着していくから気づかないんですよ。そういうところに私たちの価値があって、「今日」っていうのが提供価値なんですよね。だから日々の繰り返しという意味で「毎日に貢献する」という形にしているんですが、その先にある企業のスローガン「今日を愛する。」は、未来の姿を描いてるんですね。今日を愛する、そのそばにライオンがいるよ。ということで、このポイントが、"。"なんです。「今日を愛する。(まる)、」ここに句点(まる)があることで、あなたが「今日を愛する。」と話したところのそばにライオンがいるよという意味合いが込められていて。つまり企業スローガン「今日を愛する。」というのは、ステークホルダーとライオンが望ましい姿を一緒に叶えている結果を描いている。一方で、パーパスは、自分たちの活動の起点となるものです。


齊藤:短いパーパスやスローガンにも深い意味がありますね。そこにたどり着くまでには相当な人力・時間を要したと察します。どのようなチームを中心にどうやって進められたのでしょうか。


阿曾:経営企画部のコーポレートブランドのプロジェクトに関わるメンバーが中心になって、社内で定性的なインタビューをとったり、社外の方々とワークショップをしたり、ゴールデンサークルなどもうまく活用することで整えて行き着いた言葉ですね。

出てきた言葉の中からライオンにとって相応しいパーパスについて経営陣と何度も対話を繰り返しながらつくり上げていくようなステップでした。 


齊藤:元々は経営陣の、このままじゃいけないという問題意識から、プロジェクトチームが作られてスタートしたということですが?


阿曾:そうですね。単に企業のプロモーションをするようなことではなく、改めて企業の活動全てがコーポレートブランディングそのものだということで、その活動の起点となるものがパーパスであり、そのパーパスもちゃんと明瞭化させて皆がわかりやすいものにしていこうとプロジェクトが立ち上がりました。


齊藤:うちの社内でも、派手でないけどライオンさんらしい!と、特にパーパス策定チームが絶賛していました。


阿曾:パーパスは、独自のカラーを示してこそで、企業名なしで見てもこの企業!と想像できるようなものでなければならないと思うんです。例えば、ソニーさんのパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」これってソニーさんらしいなって外部の人も思う、そこにもう既に共感が生まれているんですね。習慣づくりで、って言われた時に違和感なく腹落ちして「ライオンらしいね」と感じ取っていただける、その「らしいね」がすごく重要だと思っています。よく「共創社会を実現する・・」とかってパーパスがありますけど、社外から認識・形成される「ライオン」という人格が何なのか、単に共創社会を実現するということでは人格って見えないんですよ。 あと共創社会をつくろうということは世界での既定路線だとすると、現時点でも言えることではありますが、数年後には完全に同質化したパーパスになっていると考えられますよね。そういう意味で、パーパスには自分たちのWHYに加えて、HOWはセットで入れるべきだと思います。ソニーさんなら提供価値は「感動」ですが、感動を提供するだけなら他の 企業もいっぱいあります。そこにクリエイティビティとテクノロジーの力でって言われたら「あっ、とてもソニーさんらしいな」という共感が生まれるはずです。「人々の毎日に貢献する」、そこに、「より良い習慣づくりで」が加わって、「ライオンらしいな」と外から認識される姿としてブランド価値が形成されやすい状態になるのかなって思いますね。


齊藤:「パーパスは、HOWとセットで」。名言だと思います。他に、阿曾さんの考える良いパーパスや参考になさった企業があれば教えてください。


阿曾:国内外多くの企業を参考にしており、直接意見交換させていただいた企業さんもあります。国内では先ほどのソニーさんをはじめ、サントリーさん、味の素さん、キリンさんなど企業理念をしっかり整理されていたり、パーパスドリブンを打ち出している企業の理念の整理の仕方なども参考にさせていただきました。国外ではパタゴニアのパーパスや企業カルチャーなども参考にしています。例えば、サントリーさんは「水と生きる」をブランドプロミスとされていて、水からこだわって表現も体現もされているというのが伝わってきます。企業ブランドのアクティビティも整合性がとても感じられるなあと。正直、多くの企業ではこのパーパスのブームに、急いでパーパス出さなきゃ!って出す「だけ」のところも多く感じられます。参考にさせていただいた企業の共通点は、ブームの以前からパーパスを策定していたり、明瞭化された企業理念をお持ちです。パーパスを出す「だけ」の企業の多くは、そこで働く従業員の視点を意識して作られていないようなものや、理念体系がごちゃごちゃになって従業員が理解できず混乱しそうなものだったり。パーパスや企業理念はシンプルであるべきだと思いますね。


齊藤:流行りで出しちゃった系、ありますよね…。そこは私たちも危惧するところです。その点ライオンさんはしっかりされたものを出された中で、制定後の反応や、社内の浸透度はいかがですか?


阿曾: 外部の人からは「とても分かりやすくていいですね。」と言っていただけるんです。チームのみんなで半年かけてその言葉を捻りだした甲斐があったなあと思うんですけど、「なんでこんなに分かりやすくて良いパーパスなのに社内でもっと共感されないのか」と、、、そこが課題なんです。私たちは、パーパスを「浸透する、浸透させる」という言葉は上から目線だから極力使わないようにしていて、共感を獲得する、という言葉にしています。パーパスを実践するのは従業員の皆なので、従業員セントリックで考えないといけない。ただ、その共感獲得に関してはまだ道半ばで、今まさに私たちのチームではどのようにインナーブランディングのコミュニケーションをデザインしていこうか、という議論を進めているところです。パーパスを実践しやすい環境づくりや組織・業務のデザインにパーパスを組み込んで、自然とパーパスを実践できる仕組みづくりも大事だと思います。



齊藤:サントリーさんのパーパスがプロダクトに反映されているという話がありましたが、ライオンさんはどうですか?プロダクトに反映されるまでには時間がかかりますか?


阿曾:時間はかかりますけど、今の既存事業というのはより良い習慣づくりを手段として、暮らしの生活に密接に関わり、新しい習慣を繰り返し提供していくところにあると思っています。例えば、ルックプラス バスタブクレンジングは、もうこすり洗いしません!というお風呂の浴槽の掃除は「こすらない」という新しい習慣を創造することで非常に売れた商品でもあるんですけど、それってみんなの暮らしの中では「こすること」が当たり前になっていたんですが、こすらなくていいことを新たに提案することで、改善したい欲求が消費者の頭のどこかにあったんだろうなって思います。実はライオンはファーストペンギンでもあって、固形石鹸だったところを液体のハンドソープに変えたり、一昔前の話になりますが、整髪剤で濡れ髪スタイリングの市場を創ったのも、ライオンなんですよ。


齊藤:まさに新しい習慣づくり!


阿曾:ファーストペンギンのように、最初に始めるということでは、いろんな挑戦をしてきています。オーラルケアブランドのクリニカでは、「歯医者さんに褒められる歯に」というコミュニケーションで予防歯科という考えを広めることに努めてきていますし、「クリニカ」、「システマ」に続くブランドとして「NONIO」というブランドがありますが、ブランドコンセプトの「口臭を科学する」も、口臭による対人関係の悩みや、口臭が相手にストレスを与えているかもしれないという潜在的な悩み・インサイトが若い世代の人たちの口腔ケア意識にすごく刺さったと言えます。


SMO広報・平原:私も、NONIOのヘビーユーザーです!


阿曾:ありがとうございます!!歯みがきによる口臭ケアという習慣で、年代の若い人たちに自分の歯みがきブランドだって思っていただけること、その習慣が繰り返されることで新しい文化として定着していくので、個人の習慣から集団の習慣になって、最終的には社会の習慣になり、それが文化として定着していく。習慣ってすごく面白いなあって思います。


齊藤:なんだか今のお話で、老舗企業という感じのライオンさんに対するイメージが変わりました。


阿曾:ライオンちゃんのイメージが先行しているので、親しみがあってちょっと歴史ある会社ぐらいのイメージなのではないかと思うんですけれど、実は意外と攻めている企業なんですよ。商品の市場価値が低下して価格競争みたいな話になると、価格の競争力がある競合がたくさんいる市場での競争は熾烈を極めます。パーパス策定の背景には、価格による競争戦略ではなく、ライオンに信頼・期待いただき、ライオンだから買いたい、あっちの企業よりもライオンの方が好きだというファンをより多く増やしていかなければならないということも言えるかと思います。また、私たちは習慣を創造する企業として消費者に価値を提供し続けないといけないと思っているので、過去の歴史を見ても、攻め続け挑戦していく文化はあると思います。


齊藤:パーパスを取り入れたのが2018年という早い段階だったのもそうですね。


阿曾:新しいものを取り入れる感度は高いですね。日本でまだあまりパーパスと騒がれていない頃から、既に海外ではカンヌ・ライオンズなどからも見て取れますが、ブランドパーパスやストーリーテリングの潮流は始まっていたことなので、ライオンもいち早くパーパスを、と2017 年には動き始めていました。ライオン流の働きがい改革では、フルフレックス制度や副業の推進なども積極的に取り入れています。習慣づくりを通した今日という価値は顧客が決めるものなので、新しい行動や生活様式を自分たちが積極的に取り入れてみることで、そこから生まれる変化を感じ取り、どんなアイディアやインサイトがあるのかは、変化を進化するチャンスだと思って取り入れてみないとわかりません。そこから商品やサービスに変えていくという、ライオンの働きがい改革もそういう土壌を積極的に作っていこうという狙いになっているんだと思いますね。

新規事業でも、「ご近所シェフトモ」というサービスがあり、地域の個人飲食店のシェフがバランスの取れた献立、お惣菜を提供してくれるテイクアウト事業なんですけど、もともと料理が苦手な女性従業員の原体験からサービスが生まれたんです。仕事をしながら育児や家事をする日々の中で、苦手な料理を頑張っているうちにストレスが溜まり、食卓から笑顔が消えてしまって。いっそのこと自分が料理をやめたほうが心のゆとりが持てるのではと思い立って地域の飲食店の力をかりることにした、その生活課題と解決策が「ご近所シェフトモ」というサービスに繋がっています。現在は、地域のコミュニティの活性化の目的も含めてサービス提供をしています。このように新しい習慣づくりを捉えた新価値創造プログラムというものを積極的に社内に導入して、イノベーションの種を育てています。当然ながら、起点となるライオンのパーパスに照らし合わせ、ライオンの事業や価値創造ストーリーに関わっていけるのか、という審査は入ります。


齊藤:先ほど、ブランディングが企業活動そのものであると仰っていて、まさに我々もそういう考え方なんですけれども、ライオンのファンを作っていくにあたり、プロダクトを通じて購入の結果のライオンのファンになってほしいのか、企業としてのライオンのファンになって欲しい、入り口の優先順位はどちらにありますか?


阿曾:両方からやってかなきゃいけないのかなと思っています。パーソナルケア用品の消費財って、コーポレートブランドとプロダクトブランドの支援貢献の関係性を表すのがすごく難しいんです。プロダクトブランドだけにフォーカスしてやっていたら、非財務的な価値は各プロダクトブランドにしか溜まっていかず、ライオンのレピュテーションは高まりません。そのため、ライオンの企業価値向上に向けては、プロダクトブランドが短期的な経済価値のみならず、社会価値を生みだすことに繋がっていかないといけません。接触頻度も重要で、ライオンの製品やサービスの提供を通して共感していただいたり、体験づくりなどでいわゆる体験価値、経験価値を顧客の中にしっかりと留めていだだいて、信頼や期待を構築していくことだと思うんです。

次世代の子どもたちへのアプローチとしては、「おくちからだプロジェクト」という活動を全国子ども食堂支援センター等で実施しています。家庭の経済環境と子どものむし歯率には相関関係が見られていて、経済的に苦しい家庭のお子さんは口腔内のケアまで意識が回らなかったりしてむし歯が多く、自己肯定感も低いことがデータで示されています。NPO法人フローレンス、NPO法人むすびえと調印し、口腔衛生を子どもの自己肯定感の向上と⼀緒に取り組む活動を今年から開始しています。  

キレイキレイのマイボトルキャンペーンも子どもへのアプローチの1つですね。自分でお絵描きしたラベルシールをハンドソープに貼ると、手洗いを自分ごと化するというインサイトを見出し、それまで手を洗いなさいと言われないと手洗いしないような子ども達が、進んで手を洗うようになる自己変容が見られました。ここから、幼稚園の子ども達にハンドソープを送るなど、マイボトルの取組みを初めて丸5年ほど経ちます。今年は衛生教材とハンドソープをご応募いただいた幼稚園や小学校に送る予定です。


齊藤:まさに習慣づくり、暮らしの生活のなかに入っている感じですよね。


阿曾:そうですね。今は暮らしの中に入っているんですけど、お家から外に出たときの生活シーンやもっと大きな社会の習慣として、インフラみたいなものに成長していきたい。例えば新商品の MIGACOT は職場などの外出先でも、歯みがきがしやすいように設計された携帯用コップ付の歯磨きセットで、一日3回の歯みがき習慣を啓発することで、歯みがきの常識や文化をつくり変えていこうとしています。


齊藤:お話からも商品への愛が溢れていますよね。売ろうというよりもパーパスに基づいて、世の中のために、誰かのためにこうしたいという思いや歴史の中で製品が生まれていて。社員の方の自社への愛情も深いのでは? 


阿曾:元々ベースにある、「愛の精神の実践」が小林富次郎の創業スピリッツとして脈々と流れているのだと思います。パーパスを明瞭化する作業や理念体系を整理していく中でも感じていることですが、「愛の精神の実践」には共感している従業員が非常に多くて、私個人もこの会社を選んだ時に素敵な言葉だなって思いましたし、従業員の皆さん一人ひとりもそうですが、とても温かい企業だと感じます。入社した時もオープンマインドで壁をつくらないで接してくれる方が多くて、ライオンで働く人達らしさとして「愛の精神の実践」が表れているような気がします。


齊藤:最後に、パーパスを策定されて社内でみんながパーパスに基づいて動き出している中で、阿曾さんとしては次にそれがどういう状態になっていくと良いと思われますか?


阿曾:まず、ライオンという会社と、それを体現する従業員の関係性が非常に重要になってくると思っています。アリストテレスの言葉を借りると「働く喜びが仕事を完璧にする」つまり、自分の生き甲斐と働き甲斐が融解していく。ライオンのパーパスと自分のアイデンティティーが近しい状態で、だから自分はこの会社にいることに価値を感じている。より多くの従業員がそういう状態になって、個人のウェルビーイングが高まっていく状態になるといいなと思っています。それから、従業員の内発的動機や自律的にパーパスを実践していくための土壌づくりが重要になってくると思います。次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーになっていこうと経営ビジョンで示しているからには、パーパスを起点にビジョン実現に向かって体現していく従業員自身も心と身体のヘルスケアをできている状態でなければなりません。また企業価値の話にはなりますが、自分たちが社会に存在する意義を明確にし、パーパスを起点としながらビジネスを進めていくことで、それに共感してくれる多くのステークホルダーと共に望ましい未来に向かって成長していくにあたり、ライオンが社会を構成する一員としてできることを、ビジネスを通して世の中に Story Doingで示していく必要があるかと思います。ただそれはライオン1社ではできることが限られるので、色んなパートナーと共に実現していくところが重要だと思います。「習慣づくり」で様々なビジネスを創出していくことで、社会課題や環境問題も解決していけることがたくさんあるのではないかと思っています。


齊藤:素敵です。すばらしいお話を、ありがとうございました!



 

阿曾 忍(あそ・しのぶ)


ライオン株式会社 

経営企画部 

コーポレートブランド戦略室 室長


これまでに菓子メーカー2 社でビスケット・シリアル・グラノーラ・コラーゲンドリンク等の研究開発・マーケティングに従事し、Eコマース対策なども担当。 2017 年からライオン株式会社で、BUFFERIN やキレイキレイなどのブランドコミュニケーションを担当。IMC・顧客体験の設計、CRM 領域・データ活用の取組み、サービスデザイン・イノベーションの新規事業領域にも携わる。 2020年8月よりコーポレートブランド戦略の専任として、ライオンの企業価値を向上させていくための社内外のコーポレートブランディングに従事している。