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執筆者の写真smo inc

大昭和紙工産業CEO齊藤 了介氏:できることからするエコ経営

更新日:2023年3月7日

SMOで毎年一回発行しているオリジナルタブロイド誌、TOKYO20xxシリーズ。TOKYO2022より、郵送方法を見直し、いままでのOPPポリエチレン袋での郵送を廃止し、脱プラ・エコ紙での郵送にいたしました。

そこで、TOKYO2022付録インタビューとして、本誌と連動し、大昭和紙工産業 代表取締役社長の齊藤了介氏に「紙とエコ」をテーマに取材をさせていただきました。本誌と併せてお楽しみ下さい。


 

長年培った紙加工技術により、安心・安全・高品質な製品・サービスを提供する大昭和紙工産業。「環境問題解決カンパニー」をスローガンに、地球規模で発生している環境問題に対し「紙」という切り口で活動されています。

代表取締役社長の齊藤了介さんと、マーケティング室兼、紙で環境対策室の泉奈那さんに

お話をうかがいました。



(インタビュー:SMO 齊藤三希子)

 


齊藤(三):何年前ぐらいから「環境」ということを掲げ出したのでしょうか?


齊藤(了)さん:まず4 年前に娘達を連れてサンクチュアリというNPO団体のウミガメ保護のボランティア活動に参加したのが、大きなきっかけです。浜松の海岸に朝行くと夜中にウミガメが産んだ卵の 穴が120 個位あって、それを拾ってケージの中に入れて孵化したら海に返す。その時そのNPOの方が、ポケットからポリ袋を出して、海亀がポリ袋をクラゲと間違えて食べて死ぬんだと。

そもそもうちは紙袋屋なんで、「VSポリ袋」みたいな論点をずっと持っていたんですが、この気づきがあった3 ヶ月後ぐらいに、ウミガメの鼻からストロー出てきましたというニュースが世界中を飛び回ったり、同じ年にアメリカの西海岸の州のいくつかでストロー廃止の法律ができたりとタイミングが重なりました。

長い目で見ると祖父が創業以来、製紙会社は木を切るから環境に悪者、という自覚もあって。慶應大学で環境経済学を専攻していたんですが、親がやっていた祖業が環境に悪いと言われていたので嫌で、環境問題への意識はベースとしてずっとあったんですよね。そのスポンジケーキのベースにウミガメの保護っていうクリームが乗って、お見せできるような形を作っていきましたね。

齊藤(三):今でこそ環境問題を掲げる会社が多い中で、割と早い方だったのではないですか?


齊藤(了)さん:誰も言っていなかったので、業界団体では齊藤がまた何か言い出した、みたいな感じでしたね。そのあとポリ袋有料化があって、紙袋に対する論点というのは増えました。

コロナで少しストップかかっちゃたんですが、紙化っていうのが1 つのキーワードになっていたんで、追い風として乗っかっていきたいなと思っていたし、今も思っています。


齊藤(三):紙化っていうのは袋だけに限らずということですか?


齊藤(了)さん:もちろん、全部です。もともと使っている資源が太陽と水からできる(=木)という、石油由来とは明確に違うというところが原点としてあって、色々なものをプラスチックをやめて紙にしようという動きは出てきています。

ざっと、紙 1トン作るのに co2を1トン出すんです。鉄1トンには2トン、プラスチックは3トンのCO2を出すんです。プラスチックが制圧している分野を、少しでも太陽と水からできる紙にした方が、環境負荷っていう意味ではマシかなと。


齊藤(三):スローガンになってる「環境問題解決カンパニー」はそういうところに繋がっているのでしょうか?


齊藤(了)さん:紙をベースに商売をしている立場から、できることって何かなと。とにかく環境問題って、複合的すぎてわからないし、自分たちがこれで世の中変えられるなんて恐れ多くてとても言えないですし、自分たちがやってることも、こっちの面では環境に優しいと思うけど、あっちの面では真逆だったりもするとかあるので。勤めて謙虚であるべきかなと思いますね。


齊藤(三):多面的に見るとどこがいいかわからないっていうのはすごく分かります。でもなんかやらなきゃいけないから、できることを分かる範囲でやるっていうことしかできないですよね。



齊藤(了)さん:考えれば考えるほど何もできなくなっちゃうんで。全部いろんな論点整理した上で、ここはやってった方がいいよねっていうことを丁寧にやっていくってことしかないかなと思います。


齊藤(三):環境という課題を解決する企業になろう、ということに対して、社内の方の反応はどうでしたか?


齊藤(了)さん: 反応という答えになってないかもしれないですけど、マーケティング室にとにかくやれって話をして、さっき言ったウミガメ活動のNPOと強力にコラボレーションして今色んなことやってるんです。


マーケティング室 泉さん:今、私はマーケティング室と、2019 年 6月から新設された「紙で環境対策室」という部署を兼任しております。紙で環境問題をどうにかしようと動き出し、サンクチュアリNPOさんと協力しながら海亀の卵の保護~放流するという活動もその1つです。海亀が来てくれるように海岸を綺麗にしておく為のゴミ拾いや、波が砂をさらっていって海岸が無くならないように保護するための土嚢袋があるんですが、元々は麻だった袋を米や小麦粉が入っているような自然由来でできた大きい紙袋に変えて作っています。私たちだからできる新しい取り組みを始めています。


齊藤(了)さん: サンクチュアリさんと組んで海を守ることをやっている一方で、more treesっていう森林保全団体と組んで森を守ろうというのもやっています。

紙だって木を切るじゃないと言われるんですが、more treesさんがやってることって、人工的に植えすぎて、国内の森林が荒れてますよ、適正にマネジメントしないと森が弱ってっちゃいますよっていうことなんです。荒れた国内の森林で伐採された針葉樹でクラフト紙を作って紙袋にしたらいいんじゃないかと。針葉樹は繊維が長いため、強度を求められるような紙袋には、針葉樹のクラフト紙が最適なんです。こうやってポリ袋の代わりに世の中の便宜に役立ててもらえれば、大きなことを言うようですが、海と森を守れますよね。

ただ国内の伐材ってすごくお金がかかる。日本の山が急斜なので、人が入って切るってとても大変なことで。海外の平坦なところに植林して切ってくる方が低コストなので、世界中それをやってるわけですけど、お金はかかるけれど、一部は国内で高コストでもやりましょうと。


齊藤(三):常に紙で自然と共存していくことを考えるという感じですね。


齊藤(了)さん:ラピュタとかナウシカの世界ですよ。本当に人間なんてちっぽけなもので、大自然のお力をちょっとだけ貸してくださいと。


齊藤(三):自分たちも生活があるし便利なことは捨てられない中で、ストイックな感じでなく自然にできることを探っていく、というのが良いですね。


齊藤(了)さん:環境問題のことって、声高に語っている方々がたくさんいらして、素晴らしいなと思う一方でちょっと疲れちゃうんですよね。主語を人間にするか地球にするかで、やることが変わってきちゃうわけで、主語を地球にした途端、人間こそいらなくなってしまう。人間が営みをして便利になろうとすればするほど、環境に悪いことしかやってないから。でも我々は我々で一生懸命生きていくということを前提に、折り合いをつけるしかないんですね。





齊藤(三):ほとんどの企業さんが今「環境」っておっしゃっていますが、具体的にこういうことを解決して欲しい、こういうことを一緒にやりたい、というようなご相談はどんなものなのでしょうか?


齊藤(了)さん:プラスチックを紙にしたいっていう相談がすごく多いんですけど、できることとできないこともあって、紙でペットボトル作りたいと言われても、技術的にはできるかもしれないけどすごく高くついてしまう。脱プラと減プラって言い方がありますけど、脱プラは無理でも減プラ、つまり一部はプラスチックを使って、紙との組み合わせだろうなって。例えばヨーグルトやカップラーメンのカップは紙とプラスチックの複合素材ですよね。でもプラスチック 100% よりはいい。プラスチック素材をできるだけ自然由来にする「ダイエット」、ここに力を入れるところだなと思ってやってます。


齊藤(三):お客様からは、プラをもう紙に変えたいんだ、よろしく!という感じで?(笑)


齊藤(了)さん:そう、わりと直情的なのが多いですが そんなのないですよ!と(笑)。すべて条件がそろってるイイ男はいないのと同じで(笑)。


齊藤(三):取り組みの具体的事例としてはどんなことを?


マーケティング室 泉さん:東近江市との企画で、市内にある飲食店に、紙袋を無料で配布をして、コロナで困っている事業主様に役立ててもらいました。また自社内でも同様の企画を行いましたが、すごく喜んでいただいてあっという間になくなって、新聞にも取り上げられ、好評でした。

齊藤(了)さん:地方自治体でいえば、これは最近じゃなくて何十年ですが、広島市ってずっと家庭用ゴミの袋が紙袋だったんです。焼却能力の課題として、ゴミから水気を減らさないといけないからです。ポリ袋だと水気も何も切らずに何でも入れるけど、紙だと家庭の中での小さい努力を促すことができる。今はポリも使用可能になったのですが、紙袋を使う人がまだまだ多いとの事です。だから私は他の地方自治体にも、紙袋にしたらどうですか? って言っています。中に何が入ってるか見えないデメリットなどもありますが。

環境ダイナリーっていうサイトで、環境に優しい製品の情報発信をやってるんですけど、メンバーには、お客様に我慢をさせなさいって言ってるんです。なんでもより便利になってきているけど、ちょっと我慢すればこれだけ減る、無駄なことをしなくて済むっていうことがありますよね。


齊藤(三):みんながちょっとずつ我慢、それって貯まると大きいですよね。


齊藤(了)さん:一方で、プラなしにこだわって開発した「七宝びいどろティッシュ」という製品もあります。


パッケージデザインで穴が空いているんですよ。そこからゴミが入ってきて流通過程で汚れちゃうかもしれないから裏にビニール貼りたいと担当が言ってきたんだけど、僕は、ゴミくらい入ったっていいじゃない!そこは通そうと。




齊藤(三):流通過程の問題は、どのように解決されたのでしょうか?


マーケティング室 泉さん:小川和紙という1300年歴史がある埼玉県小川町で作られた伝統的な綺麗な和紙で巻いています。更にクラフトの袋に入れてお送りしています。


齊藤(了)さん:利を追求すると必ずちょっとしたプラスチックを使うんで、そこはやめよう、って。ちょっと埃くらい入ってもいいじゃないと。通常はティッシュの引き出し口には、ティッシュが落っこっていかないよう立たせるための支えのプラスチックがついていますが、できるだけ柔らかい手が切れないような和紙を付けています。


齊藤(三):いいですよね。常々日本人は細かすぎるなと。見えないくらいの傷で不良品扱いで売れませんとか。


齊藤(了)さん:それこそ海外に行くと、オペレーションが雑で不親切なのに給料は高い。でも裏を返すと生産性が高い、過剰サービスはしないっていうことですよね。日本はデフレになっても過剰サービスして給料が安い、やりすぎではと。日本全体が貧乏になっているってやっと取り沙汰されるようになってきましたね。


齊藤(三):ティッシュって不当に安いと思うんです。逆にこう高ければ、1枚1枚もうちょっと大切に、丁寧に使うというのも想起されそうな気がします。


齊藤(了)さん:僕の認識ですけれど日本のティッシュが不当に安くなったのって、消費者金融がティッシュを配り始めて、もらうものだっていう感覚になっちゃったからだと思うんです。今回ポリ袋の有料化の議論もそうですが、人間、タダだといっぱい貰っちゃうけど、有料であるということが共有されると無駄遣いはしないという。

ポリ袋が有料化される時に、「代わりに紙袋にしたらいいじゃないか。」って色々働きかけしたんですけど、残念なことに今一部で紙袋の有料化も起こっちゃってるんです。ポリ袋5円、紙袋10円とか。それはそれで困る一方で、紙袋もタダでなく価値があると思ってもらえるのはマイナスだけでないなと。



齊藤(三):スーパーで選べるならちょっと高いですけど、紙を選ぶようにしています。一番はエコバッグかもしれないですけど。


齊藤(了)さん:紙袋が圧倒的に良いとは言わないけど、マシじゃない?っていう話は常にしています。先ほどの海、木を守る活動で、それぞれ認証マークがあり、紙袋の下につけて、この紙袋を採用してくれたら各団体に寄付しますよという仕組みを作りました。



齊藤(三):お客様の反応はどうですか?


マーケティング室 泉さん:好評ですね。このマークがあるからうちの紙袋にしますという方も多く、オリジナルであるこのマークを営業面でも強みにしています。


齊藤(三):その仕組みがちゃんとできているのが大昭和紙工産業さんだけということですよね。寄付とか、いいことしたいと思ってもその先がわからないから、こういう提案をされるとお客様も嬉しいですよね。


齊藤(了)さん:紙袋ってとっつきやすいんですよ。メイン商材に対して何か着手すると大がかりになっちゃうんだけど、紙袋という二次包装なら変えてもいいかな?っていう感じで。我々もいくつか部署ありますけど、紙袋を考えの入り口、スタート地点にすることが多いんです。日柄、一日紙袋のこと考えています。


齊藤(三):一緒にこういうことができるんだとか、ちょっと勉強してもらうとか、お客様の入り口としてすごくいいですよね。


齊藤(了)さん:大きな問題があって論点いっぱいある中で、我々は紙袋屋としての視点としてこういうことできますよ、御社はどうですか?というように。我々の思考のこういうプロセスを経てこんなことやってますよっていう事例なども添えて、勉強会などもやっています。資材を変えていくとか、一緒に小さいことから少しずつ、一緒にやっていきませんかと。


齊藤(三):いいですね。ありがとうございます。最後に、企業さんで環境に取り組みたいけど、何をやっていいかわからないっていうところがたくさんあると思うんですが、そういう方々に向けて何からやったらいいのかアドバイスはありますか?


齊藤(了)さん:漠然と環境問題、CO2 排出削減となると問題が大きすぎるので海を守るで、木を守るなど、論点を絞るってことが大事だと思います。プラスチックに関わってる会社でも、自分たちの生業を否定するようなことはしなくていいと思います。ダイエットっていうところを皆さんでちょっとずつ考えていくといいと思います。


齊藤(三):その絞り込みの時にやっぱりパーパスや存在理由など、自分たちが何のためにやってるのかという「そもそも」があると、環境においてもこういうことなら自分たちもできるという考え方ができますよね。一概にみんな脱炭素!と言う、それは素晴らしいことだけど、本当にできるの?と。


齊藤(了)さん:あなたとして何ができるのかっていうことなので、まず自分がやれることをつまびらかにするっていう意味で、パーパスから考えることですよね。自分たちは世の中に対してこういう貢献をしていて、そのプロセスの中で環境負荷は減らすけど貢献度は変えない。方向性を考えましょう、でいいんじゃないですか。我々は自分たちの生業に落とし込めた要素がいくつかあるので、 1 個 1 個ちょっとずつやっていくことで見えてくることがあるのかなと思います。自分たちの金儲けと、環境問題への貢献というのが対立軸でなくて、同じ方向にいくようにしないと長続きしないかなと。


齊藤(三):そうですよね。無理は続かないですし、逆にそこをうまくブランディングできると思うんですよね。差別化というか、まさに大昭和紙工産業さんのような事業のように、ここにしかできない、背景にあるストーリーとかを含めて買ってもらえる、そういうのが伝えていけたらいいですよね。今日は良いお話を、ありがとうございました。


 






齊藤 了介

大昭和紙工産業株式会社

代表取締役社長 CEO



1977年、東京都出身。2000年慶應義塾大学を卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)へ入行。先代が病に倒れ、2001年1月より大昭和紙工産業株式会社に入社。その後すぐ、23歳の若さで実質経営を引き継ぎ、2012年代表取締役兼CEOに就任。製造業として徹底した品質管理を実現する一方、自社のデザイン力を活かしたクリエイティブな顧客提案と、自社製造を実現するトータルパッケージ企業として進化を遂げた。2019年6月からは、地球規模で発生する環境問題に取り組むべく、環境問題解決カンパニーとして舵を切り始め、自らが紙で環境対策室長を兼務し、新たな事業に取り組んでいる。



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