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世界をより良く変えていくカタリスト、永続企業としてのIBMのパーパスの体現

2000年代初期にグローバル規模で行った全社員イベント(Value Jam)を元に、世界でも早い段階でパーパスを策定したIBM。古くからその根底にあるIBMの軸について、さらにサステナビリティとの関係について、コンサルティング事業本部の藤森さんにお聞きしました。


インタビュアー:青山 永(SMO)


 

IBMのパーパス・ジャーニー

~全社員が作ったバリューズからスタート


青山:まず、IBMの理念について、詳しくお聞かせいただけますか?


藤森さん:IBMの一番根幹となるところに、”Making The World Work Better(世界をより良く変えていく)”という考え方があります。世界をより良くし続けることこそが、IBMの存在意義です。コロナで、存在意義を考えた企業も多いと思いますが、IBMはかなり前から考えています。


中でも、2003年にサム・パルミサーノ(元 CEO)の時代にオンラインで開催した、Value Jamという社内イベントが象徴的ですね。全世界40万人の社員がIBMの存在意義を考えるために、未来にIBMがいなくなったら、何が起こるのか? 存在しないといけない企業になるために我々はどう行動し、どういう価値観で仕事に向き合わないといけないのか? ということを議論して、3valuesとして定義しました。社員自身が考えて紡ぎあげたものを行動指針として全世界の社員に浸透させた、これが2003年です。




公式パーパスの導入から、日本IBMによる解釈まで


藤森さん:パーパスを策定したのはその後のジニー・ロメッティ(元CEO)の時です。3valuesをベースに“Be essential”。直訳すると「本質的であれ」ですけど、日本語訳だと「最も必要とされる企業になる」。


青山:これは日本IBMの皆さんが日本語化したのですか?


藤森さん:そうですね。対外的には「世界で必要とされる企業になる」ということです。ただ捉え方は様々だと思いますし、個人的には先ほど言った“Making the World Work Better”、これがIBMにとっての本質だと思っています。例えば創業当初の事業であるパンチカードを使った統計会計機ができる前は、アメリカの国勢調査やアメリカの大統領選の集計作業に人々は膨大な時間を費やしていました。


このような集計作業を少しでも楽にさせるために出来たのがパンチカード・システムです。その後も様々な情報の保管や管理の負担を軽くするために、パンチカードから電子保管・保存へと進化し、フロッピーディスクを開発しました。さらに、それがハードディスクドライブに変わり、より多くのデータをよりコンパクトに記録できるようになったことで、人々を集計・管理・記録といった膨大な作業から解放しました。情報の読み取りではバーコードを開発し、入力作業プロセスを簡素にしました。


こういうIBMが出してきたプロダクトを一つひとつ見ていくと、”Making the World Work Better”そのものなんじゃないかと思っています。


青山:そういった長い歴史の中で、IBMさんはかなりいろんな転換(ピボット)を続けながら展開され永続されている印象があります。これも軸になっているのはパーパスということなのでしょうか?


藤森さん:軸になっているのは間違いなくパーパスですね。“Be essential(最も必要とされる存在になる)”、つまり、我々に“しか ”できないことに軸足を持つ。他の企業もできることをしてたら、我々が最も必要とされる存在にならないじゃないですか。


ハードディスクがもはや革新的な価値を提供しないと判断し、IBMはストレージ製品は提供していますが、コモディティー化したハードディスク事業を売却しました。PC 事業もそうです。例えば、PCを持ち出して家でも仕事ができるようノート型のPCを展開し、普及当時は世界で働く人々のライフスタイルを大きく変えることができた。ただそれがコモディティー化すると、価値を付加する部分が見栄えや使いやすさなどに移行し、最新のテクノロジーを生み出していく企業としての価値を提供し続けられません。このように利益が出ていてもIBM が付加価値を付けていくべき事業かどうかで、事業の継続を判断しています。


現在はAIとハイブリッドクラウドをはじめとするテクノロジーとコンサルティングの企業として、社会が必要とするサービスを提供しています。


特にハイブリッドクラウドについては、多くの企業でコアに必要なデータはまだまだクラウドじゃないところに存在しています。データドリブン経営が広まっている中で企業が勝っていくためにも、これらのデータをちゃんと有効に活用できる環境を整備するところが大事ですし、IBMはそのご支援をしています。


データを活用するのは企業の利益のためだけではなくて、社会的にも非常に意義のあることだと思っています。色々なデータを収集し、大量のデータを分析をしていく中でも人間の力だ けでは難しいので、そこでAIが必要ですね。


“Be essential”となるために、現在はテクノロジーとコンサルティングを提供していますが、もしかしたら10年後20年後は全然違うことをしている企業かもしれませんね。



パーパスのさらなる進化と改訂


青山:自分たちの存在意義や理念、ビジョンを社員に理解してもらい、それに基づいて判断行動してもらうようにするための、会社としての取り組みはどのようにされているのですか?


藤森さん:先ほどのイントラネットで意見を出し合うJamという手法は、その後も継続的に、全世界の社員で行っています。今年、IBMはパーパスを改定して、“Be essential”から“to be the catalyst that makes the world work better.(世界をより良く変えていくカタリストになる)”になりました。


世界4地域でタウンホールミーティングを開催して、その中の社員ディスカッションで、社員のアイデアから生まれたものです。さっきの“Making the World Work Better”に“to be the catalyst”を付けました。


IBMは縁の下的な存在ですが、1人では世界は変えられないので、共創していくことが非常に重要です。今起こっている社会問題も1社で解決できるものはほとんどないんですね。IBMがどんなにテクノロジーを開発しても、それによって社会がすぐ良くなるわけではないので、色々な企業と共創して、化学反応を起こし、イノベーションを生じさせて社会を変えていく。我々はお客様企業の成功を支えるためのカタリスト(触媒)として存在するという意味で、“to be the catalyst”をつけた。社員のそういう意識なんです。


日本では社長の山口が2019年の就任時に掲げた日本IBMグループ・ビジョンに基づく経営が行われています。特にその中の「あらゆる枠を超えて」というメッセージが社員に広く浸透していて、日々の業務の中で実践されていると思います。



パーパスを軸にした経営判断


青山:以前 Smarter Planetというタグラインも掲げていらしたIBMですが、People, Profit、Planet,の3つの視点で、IBMを語るといかがでしょうか。


藤森さん:IBMにしか作れないテクノロジーを正しく、オープンに倫理的に活用していくことで、個人や地域社会、世界に対して影響を与えていく。これが我々の果たすべき使命だと思っています。


Planetの視点では50年以上、SDGsが策定される前から、地球環境の保護保全活動を行ってきています。例えば、2022年2月からグローバルでSustainability Acceleratorという社会貢献プログラムを開始しました。現在は「持続可能な農業」と「クリーンエネルギー」をテーマとしたプロジェクトが進行中で、日本では宮古島市で再生可能エネルギーのプロジェクトを実施しています。


Peopleの視点では、テクノロジーとコンサルティングの会社として、社員一人ひとりが源泉です。そこが最終的に何かしら利益を生まないと永続できないので、どれかひとつではなく、3つ全部を並行して行っている感じですね。


Profitの視点では、IBMは儲かるために何でもするかというと決してそんなことはなく、ロシアのウクライナ侵攻後、早いタイミングでロシアでの事業の撤退を決めましたし、AI顔認証事業は2020年に撤退を表明しています。AIも色々な形で使われようとしていますが、IBMはAI倫理規範を2018年に規定し、AIを使うのに倫理が必要だと提唱しているんです。


我々が考えてるのは基本的に人間中心。AIに人間の仕事が奪われるという話がありますが、そんなことはなくて、あくまでもAIは人間の能力を増幅させるためのツールなんですよね。透明性が担保できない、説明責任が果たせないAIだったら世に出さない、というベースがあります。だから儲かるために何でもする企業ではなくて、真ん中にパーパスがあって、きちんとパーパスにあったことでしか、プロフィットを生まない。逆に言えば、そのパーパスに沿ってプロフィットを生み出してる限り、たぶん永続的に3つのPは回るんじゃないかなと。




個人のパーパスと会社のパーパス


青山:藤森さん自身の個人的なパーパスと、IBMのパーパスの関係についてはいかがでしょうか?


藤森さん:IBMのパーパスに、私はすごく共感していて、個人としてやりたいことも近しい。大きいことを成し遂げたいとはあまり思っていなくて、裏方としてで良いので、働く方々が少しでも効率的にできるようなお手伝いをするというのは、自分自身の目的でもあります。


青山:その個人のパーパスと会社のパーパスは、それは最初から合致していたのか、次第に擦りあってきたのか、合わせるような仕事をご自身で作っていかれたのでしょうか。


藤森さん:Be essentialのような考え方はもともと自分も好きでした。ただ私は入社当初はIBMへの帰属意識も高くなくて、IBMのパーパスも知らないくらいでした。だんだん自分自身もIBMが目指していることに興味が出てきて、調べて知っていくと自分のやりたかったことに近いんだと気づきました。


印象的なプロジェクトとして、ある企業さんでのモバイルアプリ導入があります。朝オフィスに着くと最初に色々なシステムにログインをしてプリントアウトして…を繰り返して、それを全部リュックに詰めてから、実際に作業をする現場に向かう、という手順を踏んでいた。そこにモバイルアプリを導入することによって、各システムのログインだけでなく、ワークオーダーも紙ではなくてスマホで見ながらメンテナンスができる、最終的にはオフィスに寄らなくてもそのまま現場に行って作業ができることを目指したんです。最初、今まで30年以上同じ方法で仕事をしてきて、プライベートでもスマホを持ってないのに、できるわけないと言われる方も多くいました。


結果的に導入に至って、それによって帰る時間が早くなって子供と一緒に夕飯を食べられるようになったとか、このシステムを入れてくれて本当にありがとうという言葉を聞きました。テクノロジーをうまく活用できれば、非効率な仕事はもっともっと楽になるし、きっと家族との時間も多く取れるし、そういうBetterにできる仕事はまだ世の中に山ほどあると思っています。


なので、結局Making the World Work Better に立ち返って、自分自身とIBMが目指していることは一緒なんじゃないかなと思います。




より持続する社会、持続する企業になるために


青山:クライアントの企業に行ってコンサルティングもされているということですが、IBMの存在意義だけでなく、お相手先の企業様を支援するにあたって、相手先の企業での存在意義の重要性を、お聞かせいただきたいです。


藤森さん:パーパス経営の意識を持つ企業が日本でも非常に増えていて、理念やパーパスの策定も支援しています。実際にそれを具現化するところでも、毎年世界で3,000-4,000名規模のCEOの方々にアンケートを取って、お話を聞いてまとめたCEO Studyというレポートを出しています。今CEOの方が一番気になっているのは、パーパスはもちろんですが、あとサステナビリティですね。サステナビリティに対する課題意識は非常に強くて、全世界で51%のCEOが今後2-3年で最も課題になるものとして選んでいるんですね。


日本はそこより17%高くて、68%のCEOが今後2-3年の最も大きな課題としてサステナビリティを選んでいるんです。


サステナビリティといってもSDGsだけでも色々な項目があり、色々な企業がいて得意不得意がある中で、その企業が社会に役立てることを考えるお手伝いをしたり、プロジェクトとして起こしていくところも、共創させていただいています。


青山:どうして日本企業のCEOの方がサステナビリティへの課題意識が高いのだと思われますか?


藤森さん:元々日本は社会性を考える企業が多いんですね。利益を出したら、その利益を社会に還元して、社会を良くする、そういう意識の企業が日本は多いんじゃないかなと個人的には思いますね。前職のパナソニックもまさにそうでした。松下幸之助さんは「利益とは社会に貢献したことの証である。多くの利益を与えられたということは、その利益を使って更なる社会貢献をせよ、との世の声だ。」と言っています。


だからサステナビリティや、循環型の社会をちゃんと作っていこうと思った時に、企業が果たすべき役割意識が強いんじゃないかなと。もちろん企業が儲かることも大切ですけど、全てのステークホルダーに対して還元していかなくてならないという意識が、欧米系企業より強い気がします。企業の存在意義が株主利益に寄り過ぎていないとも言えるかなと思います。


青山:今後、挑戦していきたいことはありますか?


藤森さん:世の中で色々な仕事があるなかで、まだまだ非効率なところがいっぱいあります。すごく地道ですが、粛々と改善すべき業務を見つけて改善していくことですね。それ以外では、最近メディア配信に力を入れているのですが、その背景に、IBM自身は裏方で、縁の下の力持ちだと言ったんですけど、そこには危機意識があって…、かつてIBMはThinkPadというノートPCやPCサーバーを提供していたので表に出ていたのですが、今はもう売却して以前に比べて一般の方との接点が減っているので、IBMが何をしている会社なのか知らない人が増えている。どうしても世の中では表舞台に立つ企業が目立つんですが、我々のような存在が裏方にいることも多くの人に知ってほしい。私以外にもいっぱいいるはずの、同じようなパーパスを持っている人に、知ってほしいと思います。


青山:ありがとうございました。



 

藤森 慶太(ふじもり・けいた)

日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部 戦略コンサルティング&デザイン事業 担当執行役員・シニアパートナー


米大学院にてファイナンスマネジメント修士号取得後パナソニック入社。その後2008年IBM入社。IBM入社後はファイナンス戦略や事業改革、業務改革を構想からシステム構築まで一貫してリード。通信メディア公益サービス事業部長、モバイル事業部長、コンサルティングのブランディング担当も担い、メディア出演や講演、執筆も行う。2022年5月からは日本IBMのメタバース事業リードも兼務している。



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