SMOメンバーコラム、今月は、コンサルタントの横川真依子が”マイパーパス”について語ります。
コンサルタント、maikoです。
昨今、企業が社員に対して「マイパーパス」の言語化・可視化を求める例が増えています。マイパーパスの定義は様々ですが、企業のパーパスが自社の存在理由であるならば、個人のマイパーパスは自分が思う自分の存在意義、すなわち『何のために生きるのか』や『何のために働くのか』、と言い換えることができるでしょう。
マイパーパスは、企業が自社のパーパスを策定する流れの中で、パーパスを自分ごととして捉えてもらったり、社員一人ひとりが何のために働くのかと向き合い、働くモチベーションを向上させたりするための一つの手段として用いられる傾向が多いように思います。
しかしながら、ここに落とし穴があります。すべての企業の社員の「マイパーパス」のベクトルが、必ずしも企業や働くことに向くとは限らないという点です。
『ある日突然、人事部からマイパーパスを書くように言われ戸惑った。何も考えていないわけではないが、会社のために働いているわけではないし・・・』と話される方もいらっしゃいます。また、働く意味についての調査を実施したら約9割が『お金のために働いている』と回答したという経験もあります。
もちろん、自分のため、お金のために働くということが間違っているわけではありません。むしろ現代を生き抜くためには必要なこと。半分は社会の一員である者の義務として、半分は自分や大切にしたい人のために働くということは、ごく自然な考えですし、少なくない方が、共感されるのではないでしょうか。
ですが、お金を得ることは手段であり、それ自体が目的になることはほとんどありません。「お金を稼ぎたいから働く」とおっしゃる方も、よくよく話を伺ってみると、家族やパートナーに満足のいく暮らしをさせてあげたいとか、都心の綺麗な部屋に住みたいとか、老後の不安を解消したいとか、推し活の財源が欲しいとか、稼ぐことの先の目的が必ずあります。そして、その根幹には、その方の固有の価値観があり、価値観が形成された原体験(ライフストーリー)がある。ここまで深ぼってようやく見えてくるものがマイパーパスの種であると、私は思うのです。
この前提に立つと、マイパーパスの種は誰もが持っているものですから、単に個人としてのマイパーパスを問うのであれば、ほとんどの人が何かしらを言葉にできるのではと思います。
問題は、企業がマイパーパスを社員に求める際に期待するものが『自社で働く社員としてのマイパーパス』であり、自社の文化や社員の価値観に関係なく一様にしてそのように取り入れようとしているという点です。
もちろん理想は、すべての社員が目的意識を持ってイキイキと働く組織であることですが、社員の立場に立つと、「自分のことで精一杯なのに、そんなことを急に求められても・・・」と思ってしまうのも、無理はない気もしてしまいます。そもそも、企業パーパスの浸透や、社員の働くモチベーション向上といった本来の目的に照らしたとき、企業が自社の性質を顧みずに社員にマイパーパスを問うことは、適切なアプローチなのでしょうか。
数ヶ月前に終わってしまいましたが、ドラマ『不適切にもほどがある』にはまっていました。
物語は、昭和61年(1986年)を生きる主人公が現代にタイムスリップするところから始まります。いわゆる熱血教師で『地獄のオガワ』の異名を持つ主人公が、社会や価値観の変化に戸惑いながらも、自分の心に正直に、懸命に周囲と向き合う姿や、その姿勢が周りに影響を与えていく様が印象に残っています。
場面場面で突如始まる、軽快なミュージカルソングに合わせて登場人物たちの切実な想いを語らせるシーンは、昨今では扱いづらいテーマも多く取り上げられており、「多様性迷子」とも言える現代の生きづらさを代弁しているかのようにも感じられました。
あのドラマの主人公たちは、どこかで働く社員でもありました。彼らの勤め先が、彼らにマイパーパスを問うたとしたら、一体何と答えるでしょうか。
『地獄のオガワ』に意見を求めたら、「マイパーパスって何かい?働く意味ってことかい?そんなのみんな、幸せになりたいからってことに決まっているじゃぁないかい?」・・・なんて答えが返ってきそうです。
企業が社員のマイパーパスを問うこと自体が不適切だとは決して思いませんが、それはあくまで社員の価値観を引き出すものであり、社員に寄り添い、より良い組織に向かっていくためのきっかけとして用いられることが望ましいと、個人的には思います。会社のやりたいことの押し付けになってしまっては、かえって社員のエンゲージメントが低下し、本末転倒になってしまうかもしれません。
「互いを、違いを理解し合おう。みんなで一緒に考えながら、より良い社会を作っていこう。」
ドラマのメッセージが、思い起こされます。マイパーパスが、企業と社員のみなさまがより良いコミュニケーションをとるための手段のひとつとして、活用されていくことを願っています。