企業のパーパスで、財務パフォーマンスは本当に向上するのか?これについて、2016年にニューヨーク大学ビジネススクール、コロンビア大学、ハーバード・ビジネススクールは共同で研究し、包括的なデータを用いて、「企業のパーパスに対する従業員の信念強さと、財務パフォーマンスとの関係について」を立証した。
この研究は、2006年から2011年にかけて、Great Place to Work Instituteが提供したデータに基づいており、429社の米国上場企業のさまざまな階層の従業員からの456,666件のアンケート回答データが含まれている。アンケートでは、次のような組織特性について回答者が評価している:
職場の同僚意識
管理
仕事そのものの性質
研究者らは、階層ごとに従業員がパーパスをどのように認識しているか、そしてこれらの認識が財務パフォーマンスにどのように影響するかを探った。
強いパーパスを持つ組織の定義
まず、研究者らが強いパーパスを持つ組織をどう定義しているかを見てみよう:
「強いパーパスを持つ企業とは、従業員が総じて自分たちの仕事の意味と集団としての影響を強く感じている企業のこと。」
以下の4つの質問に対する回答が高いほど、その回答者は企業のパーパスに対する強い信念を持っていることを示している。
私の仕事には特別な意味があり、ただの仕事ではありません。
会社がコミュニティに貢献する方法に満足しています。
会社が達成することを見て、誇りを感じます。
ここで働いていることは、私の自慢です。
強いパーパスを持つ2種類の組織
データの分析により、強いパーパスを持つ組織には2つの種類があることが明らかになった。
①同胞型パーパス組織(Purpose-Camaraderie Organization)
(1)パーパスと(2)職場の仲間意識での高いスコア。以下のアンケート質問に対して高い回答を示した。
ここは楽しい職場です。
職場には一体感があります。
会社には家族やチームのような感覚があります。
②明瞭型パーパス組織(Purpose-Clarity Organization)
(1)パーパスと(2)管理の明瞭性と自律性の次元での高いスコア。以下のアンケート質問に対して高い回答を示した。
経営陣は組織がどこに向かい、どのようにそこに到達するかについて明確なビジョンを持っています。
経営陣は期待を明確にします。
私は仕事をするためのリソースと設備を与えられています。
財務パフォーマンスを駆動する明瞭型パーパス組織
上記の①・②の両組織はどちらも強いパーパスを持つが、分析により重要な違いが明らかになった。研究では、明瞭型パーパス組織だけが財務パフォーマンスに影響していることを示した。明瞭型パーパス組織は、マネジメントの明確なコミュニケーションと方向性により、将来の会計および株式市場パフォーマンスが向上した。この発見は、マネジメントからの明確な指示が財務結果に与える影響、しいてはパーパスのとの関連性が肯定的であることを示している。
中間管理層が鍵
研究はさらに、明瞭型パーパス組織において、従業員のどの階層が強いパーパスを明確に持つと財務パフォーマンスに最も大きな影響を与えるかを深く探るべき分析したところ、中間管理職がこれらの企業のパフォーマンス向上の主要な推進力であることが明らかになった。具体的には、シニアレベルの役員や前線に立つ従業員が高いパーパスと明瞭性を持っていても、企業のパフォーマンスにはさほど大きな影響を与えないことが分かった。研究論文によると、(1)パーパスに対する信念、(2)目標と戦略的方向性についての管理の明瞭性、これらの2つの要因が中間組織の階層内で加算的に結びつくと、企業はより高いパフォーマンスを発揮するという。
研究者たちは主要な発見を次のように述べている:
「企業のパーパスに対する強い信念がより良い企業パフォーマンスに関連するという示唆は、組織の中間層でその信念が保持され、マネジメントからの明確な指示とリソースが伴っている場合に限ります。」
中間管理職が鍵を握る理由
研究は中間管理職が重要である理由に関する仮説を述べている:
中間管理職は戦略の開発と実行の両方に重要な役割を果たし、これは企業の財務パフォーマンスにリンクしている。他の職位とは異なり、中間管理職は通常、2タイプの両方での責任を負っている:
トップダウン:中間管理職は(1)上級管理職の戦略の実行と(2)下位レベルの従業員の意思決定と行動に影響を与える責任がある。
ボトムアップ:中間管理職は下位レベルの従業員からの洞察と情報を収集し、これを上級管理職に伝え戦略の改善を図る。
この二重の役割こそ、中間管理職が企業の財務パフォーマンスに直結する鍵であろう。しかし、パーパスが中間管理職にとって重要なのはなぜなのか?それは、雇用契約上で明記されていないということ、つまり定量化・公式化されないところにヒントがある。論文によると「中間管理層においては、戦略の忠実な実行、下位レベルの従業員への伝達、情報とアイデアの上向きの伝達といった責任は正式な雇用契約として明記するのが難しい。」
中間管理職の責任が法的な契約によって厳密に定義されていないということは、彼ら自身がイニシアティブを取る必要があるということだ。中間管理職が自分たちの仕事が意味のあるものであることを確信することこそ、彼らの主要な推進力となる。中間管理職が明確なパーパスの感覚を持ち合わせることが、マネジメントによる明確な目標設定、そして目標達成に必要なリソースの確保に結びつくのだ。
企業がパーパスを活性化するための洞察
この研究の発見は、企業がパーパス活性化の取り組みを設計する際に貴重な教訓となる。中間管理職がパーパスの活性化において重要な役割を果たし、明確なコミュニケーションとエンパワーメントが必要であることを理解することで、より効果的なプログラムを設計できる。
企業がパーパスの活性化を行う際に重要な2つの洞察 :
パーパス以上の伝達
明確な目標:企業のパーパスを単に伝えるだけでは不十分で、企業は、そのパーパスを実現するための主要な目標も明確に伝える必要がある。これにより、従業員はパーパスが何であるかだけでなく、それをどのように達成できるかも理解することができる。
パーパス実現へのロードマップ:企業はパーパス実現への明確なロードマップを提供すべき
従業員のエンパワーメント:従業員がパーパスに貢献できる手段と自律性を持つ必要性。これには、従業員がイニシアティブを取り、企業のパーパスに一致した意思決定を行うためのリソース、ツール、およびサポートを提供することが含まれる。
2. 中間管理職の中心的役割:
中間管理職に焦点を当てる:パーパスの活性化は特に中間管理職が鍵を握る。上位管理職と現場の従業員をつなぐ重要な役割を果たす彼らこそ、パーパス活性化の取り組みの焦点とされるべき。中間管理職がパーパス活性化の責任を持つことで、企業はより良いパフォーマンスを発揮し、より一貫性のある組織文化を創造することができる。
引用: