2020年に登場した「スターバックス ティー&カフェ」は、現在日本全国に14店舗を構え、スターバックスの常連客が慣れ親しんできた形態とはやや異なる体験を提供している。このタイプの店舗は一般的なコーヒー中心の店舗とは異なり、ティードリンクに特化しており、紅茶、抹茶、ほうじ茶などをベースにしているドリンクを提供している。インテリアもお茶をテーマに五感を刺激するデザインで、日本で高まるお茶文化への関心に応える体験ができる。
スターバックスのイノベーターのジレンマ
スターバックスはコーヒーの代名詞であり、アイデンティティの中核をなす重要な強みだ。しかし、スターバックス・ティー&カフェの導入により、同社はコアコンピテンシーであるコーヒーを直接活用しない新しいカテゴリーに進出しようとしている。ここに、イノベーターとしてのジレンマがある。それは、スターバックスのように成功した企業が、現在の収益性の高い事業に集中するか、それとも保持する事業において破壊的なイノベーションに投資するかの選択課題のことである。
お茶への新たな注力は、スターバックスのブランド力を低下させるだろうか?スターバックスといえばコーヒーを連想する既存顧客はどう反応するだろうか。また、スターバックスの主力商品であるコーヒーの売り上げにどのような影響を与えるだろうか?スターバックスがこの新事業を避けるに値するリスクや理由は数多くある。
パーパスはいかにイノベーションを推進するか
リスクがあるにもかかわらず、スターバックスはスターバックス・ティー&カフェの導入という新しいカテゴリーへ参入した。スターバックスのパーパスという視点から見ると、この戦略的な動きは理にかなっているのだ。彼らの存在理由を見てみよう:
この一杯から広がる、心かよわせる瞬間
それぞれのコミュニティとともに
─ 人と人とのつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます。
こちらはスターバックスのミッションステートメント。パーパスと同じものとして彼らの存在理由「私たちがここにいる理由」として掲げられ、実行されているものだ。このスターバックスのパーパスから見れば、コーヒーの代わりに別の手段であるお茶を通じて、パーパスを追求し、果たしているに過ぎない。
スターバックスのお茶市場への大胆な進出が成功するかどうかは、もう少し時間が経たなければわからないが、賢明な判断だったと言えるだろう。それは、消費者のニーズの多様化でより良い健康や幸福を求める傾向が強まっていることが言える。この動きはスターバックスのパーパスに合致し、進化する顧客の嗜好に応えるものだ。
企業が生き残るためにはイノベーションが必要であり、これまでとは違うやり方、新しいアイデアを試さなければならないのだ。その際に、パーパスは重要な役割を果たす。パーパスが適切に定義されており、特定の事業領域に縛られていない場合、従来のカテゴリーから解放され、既成概念にとらわれない思考と実験が可能になる。これがイノベーションの原動力となる。
馴染みのない市場への参入といったようなリスクが高く不確実な決断は、従来型のビジネスで見れば、理にかなっていないとされるかもしれない。しかし、パーパスというレンズを通せば、こうした決断は一貫性のある賢明な判断と言える。パーパスとの一致は、企業がコンフォートゾーンから飛び出すためのインスピレーションとなり、後押しとなる。
つまりパーパスは、企業の新規事業開発や、新規市場開拓へのきっかけとなり、新たな分野で成功しうる機会を生み出す原動力となるのだ。
引用:
スタバはなぜ「ティー特化店」を増やすのか 出店戦略と3つの相乗効果: https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/01008/00001/