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(後編)建学精神から成るWASEDA VISION 150 早稲田大学大野高裕教授インタビュー 

更新日:2月22日

(前編からの続き)早稲田大学は、2032年の創立150周年を迎えるにあたり、2012年に中長期計画「Waseda Vision 150』を策定。ご専門である経営工学の研究の傍ら、大学経営にも携わり、Vision 150の策定メンバーの中心の1人として策定に関わった理工学術院 創造理工学部の大野高裕教授に、大学のビジョンとパーパスについてお話をお伺いしました。


(インタビュアー:SMO 齊藤 三希子)


 

VISION150の策定の経緯と実践


(早稲田大学公式サイト Waseda Vision 150について より)

齊藤:先ほど少しお話しされた、早稲田の創立150周年に向けたVISION150についてお伺いします。策定は何年にされたのでしょうか。

 

大野:150周年の年である2032年の完成を目指して、2012年にスタートということで2010年から作成作業が始まりました。

 

齊藤:もともとある早稲田の精神も据えながら、150年という節目に向け、ビジョンをアップデートされたわけですね。必要になってきた背景はどのようなものでしたか。


大野:それまでも中期計画とかあって、歴代の総長がつくっていたのですが、代替わりすると消えてしまう。それの総括もなく、PDCA(Plan・計画、Do・実行、Check・評価、Action・改善)で回すことがない。かつ各学部からすると、本部でお好きに作ってどうぞ的な感じで。それじゃだめだと思い、組織全体を巻き込む形で、PDCAを回して、各学部のビジョンも作ってPDCAを回してねと。

 

齊藤:企業経営でも似たような話を聞きます。経営者が変わって理念が途絶えてしまうと。150周年が2032年とのことで、20年先を見越して作られたわけですね。

 

大野:20年先の大学のビジョンって、そこまで長いのはあまりないんだよね。早稲田がやったらトレンドになったくらいで(笑)。

 

齊藤:トレンドをつくられたわけですね(笑)。20年という長いスパンを見るべきとしたのはなぜなのでしょうか?

 

大野:企業であれば、売れたら生産も人も増やしてどんどん変化しますが、大学はそう簡単に変わることはなくて、学生の定員が決まっていて売り上げが決まっている。先生たちもある程度、固定している。そうなると新しく学部を作るのは難しいし、今の少子化では、定員増やすのも難しい。となると、今まであった組織を作り替えるしかないわけですが、従来の先生たちは変化を拒みがちで、企業に比べると、変化を起こして回すにはとても時間がかかる。だからこそ長期的なビジョンを考えて、やっていかないといけないんです。

 

齊藤:なるほど。長いスパンということで工夫されていることはありますか。

 

大野:20年を5年ごとに4期で区切って、さらにその5年間も一年ごとに区切って、年間目標を作り、PDCAを回しています。一昨年で10年経って、今は田中愛治総長のもとでブラッシュアップしているところです。


齊藤:全学部を巻き込んでという初めての試みですよね。導入されて今までいかがでしょうか?

 

大野:やはり金と予算をつけないと動かないんで、このビジョンを実行する上で、予算と人の枠をつけて、本部に申請して、3年5年でつけるんです。その間で上手く自立できるように、各学部の人事枠でできるようにうまく回してもらうようにしたのが一つの成功のカギになったかなと。順調に動いているかというと難しい点もあるが、VISION150を意識して動かしているとは思いますね。 



創立時からある「パーパス」


 齊藤:まさに企業も同じです。本気出して理念を浸透・体現するには、予算と人をつけるのが重要で。

 

大野:そう、この前も、ある大学の学長や幹部から、改革と言われても先生の負担が強く疲弊するだけでどうすればいいのか?と聞かれて、それは金と人をつけるしかないんじゃないですか?と答えたんです。とはいえ、今の早稲田を見ていても、なかなか新しいことに取り組めない。財政的な問題もあって、大胆に予算を付けられないから、現状維持に留まってしまいがちかと思います。

 

齊藤:難しいですね。でもそこを打破するためのVISION150であり、それを実現していくためにということですよね。


大野:何を目指すか?っていうと、そこはまさにパーパスだと思うんです。大隈重信たちが創立時に考えたことを30周年の時に言葉にした「早稲田大学 教旨」。

  •  学問の独立

  •  学問の活用

  •  模範国民の造就

という3つの理念、これこそがパーパスであり、それを実現していくんだよと。

学問の独立とは、新しいことを発見し作ること。

学問の活用とは、世の中に役立つまでにもっていかないといけない。

じゃあそれを誰が担うのか?というので、模範国民の造就。模範国民とは、組織を動かしていけるリーダーのことで、それを作ることなんです。

 

齊藤:VISION150の、さらに上位概念としての揺るぎないパーパスとして「早稲田大学 教旨」があるのですね。


(早稲田大学 入学案内パンフレットより)

 

大野:この理念を実現させた事例が理工学部なんです。理学とは元々、ブラックホールだったり数学の定理の発見だったり、何かの発見はしても、「それって我々の生活にどう役立つの?」がよくわからない。理学部であれば、それでいい。それを役立てるのが工学なんです。例えばガソリンに空気を混ぜて火を合わせるとバンッと爆発する、これは理学で、それを自動車のエンジンという形で役立てるのが、工学。ここでようやく人の役に立つ、すなわち早稲田には理工学部があることが必然となるわけです。なぜなら学問の発見をして「活用」までするのがセットだから、そこに理念が活きていると僕は信じています。

 

齊藤:なるほど。それが人の役に立ち、模範的な人を作っているということなんですね。

 

大野:付け加えると、当時、富国強兵と叫ばれた明治時代、次々に殖産興業を担う人が必要だったわけです。東大とかはトップ層のエンジニアを育て、工場で一緒にものをつくるという意識が無かった。トップの頭脳だけいてもしょうがないよね、手足を動かす人が必要ということで、大隈たちが、リーダーと実践型の人間となる理工学部を作ることになったのです。

 

齊藤:まさにそれがイノベーションを起こすことに繋がるのですね。これまで脈々と3つの教旨が受け継がれてきたのは、どのようにされていたのでしょうか。

 

大野:校歌「都の西北」で理念を歌い込んでいるんだよね。1番は学問の独立、2番は学問の活用、3番は模範国民の造就。1番から3番までの歌詞の中に、共通の言葉が唯一あるんです。それが、「理想」。やっぱり早稲田は常に理想を追い求めていくチャレンジャーなんだと思います。

 

齊藤:校歌に理念が凝縮されているわけですね。

 

大野:企業のパーパスにしても、そういう何らかの仕掛けが必要だよね。野球の早慶戦なんかで歌うことで、知らないうちに刷り込まれ、永遠と受け継がれているから、校歌ってすごいなと思う。


齊藤:実践型のリーダーを育てるという3つの教旨から、VISION150まで、長い歴史のストーリーが全部繋がっているんですね。

 

大野:だから当時の人たちって、空理空論ではなく、ちゃんと地に足をつけて着実にやってきたのだなと。だから早稲田はそれなりの評価をしてもらえて、ファンが多い。上京して早稲田で学んだあとに東京から戻って地方のリーダーとなって地域のために一生懸命働いてきた人が多いので、地方に人気がありますね。



早稲田大学の存在意義

 

齊藤:VISION150の文言には、「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献」というくだりもあります。こちらについてはいかがですか?

 

大野:大隈は演説で「人間は知識が増えると金儲けも地位も得て自己中になってしまうが、それが文明の弊害だ。人のために犠牲的精神で働ける人を作る」と3つの理念を定めた時に言っているんです。そして、「犠牲的精神を一生涯続けるのは難しいから、死ぬまで努力し続けないといけない」と結んでいます。

 

齊藤:終わりがないと。

 

大野:そういうこと。常に自分に対して問い続けなければいけないと言っている。VISION150を作る際に、何をベースにすべきか?は、これらで自ずと定まりました。今でも古びてないものですね。

 

齊藤:VISION150として今のことばに翻訳されたにすぎないということですね。

 

大野:そう、学問の独立はイノベーション、学問の活用はグローバリゼーション、模範国民の造就はダイバーシティ。つまり、今大事と言われているこれらのことが、100年以上前にしっかり語られていて実践しようとしてきた。これを何かに変えちゃうってことはあり得ない。もし彼らの言っていることが古いってなったら、早稲田の存在意義がなくなった瞬間なんですよ。そのとき、早稲田大学という組織は消えていい。でも人間が存在する以上は無くならないと思うんです。

  

齊藤:先生のような、素晴らしい指導者がいるからこそですね。少子化の中でも、早稲田の人気が衰えない理由がわかります。本日は、ありがとうございました。

 


 

大野 高裕(おおの・たかひろ)

早稲田大学理工学術院教授


早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科博士課程修了。工学博士。同学部専任講師、助教授を経て、1995年教授。















 
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