パーパスドリブン企業としてグローバルに活動するユニリーバ・ジャパン株式会社の取締役であり、人事総務本部長(CHRO)の島田由香氏。新しい働き方への実現を目指すネットワークTeam WAA!や、持続的幸福を日本に広げる#PERMA25JAPANなどを主催されています。仕事と自分のパーパスの接点を見つけて、誰もがいきいきと働ける世の中を目指して活動されている島田さんに、リモートでお話を伺いました。
齊藤(SMO):島田さんは以前からパーパスの重要性を発信されてきました。
島田:パーパスってこの2.3年わかってくださっている方が増えてきたと思いますが、齊藤さんはその前からずっとパーパスブランディングについて扱ってこられて、私自身も、前から私たちが生きていく上での本質だと思っていました。このインタビューを読んだ方が、パーパスってこういうことなんだ、となんとなくでも分かってくださり、自分のパーパスというものを考える旅が始まるといいなと思います。
齊藤(SMO):私たちエスエムオーは、主に企業のパーパスを考える側なのですが、島田さんは個々人のパーパスの重要性も説いていらっしゃる。
島田:「あなたのパーパスはなに?」「あなたはどんなパーパスをもってるの?」と聞けちゃう世界って本当にワクワクするなと。誰かのパーパスを聞くと、その方がそのパーパスと繋がっているから、聞いているこちらにも伝わって、胸が熱くなるというか震えるというか。
同時にすごくたくさんの方が、自分のパーパスをまだ見つかっていませんって言うんですが、実はそれでいいんですよね。
そもそも自分のパーパスってなんだろうって問いかけを始めた時から旅は始まっていて、その旅は始まっちゃうと終わらないんです。だから、誰かに、「パーパスは何?」って聞くこと、その問いかけがもう旅のスタートで、みんなが言いまくったらみんなの旅が始まる、是非これを広げていきたいなと思っています。「あなたの名前なあに?」と一緒なんですよ。
平原(SMO):いいですね!初対面の挨拶が、パーパス交換。それが当たり前になる世界にしたいですね。
島田:私たちも1秒ずつ進化しているから、パーパスの表現がそのうち変わっていっても全然いいんですよ。でも、それをどう表現するかの手段が豊かになったりして、表現が変わったとしても、最初の頃から感じていることとか、思っていることは実はあまり変わっていない。自分のことだから、真髄はわかっているんですよね。なのでまず最初に私から皆さんに「あなたのパーパスはなに?」と問いかけたいと思います。
平原(SMO):素敵です!では島田さんが考えるパーパスとはどんなものでしょうか?
島田:生きがいっていう日本語の表現が、特に欧米で「Ikigai」として、すごくブームになった時期もありました。「モッタイナイ」みたいに英語になっているんです。それを表す図としてよく使われるものがこちらで、「ikigaiとは、存在している理由のこと」とあり、これってほぼ、=パーパスと言えるかも知れません。
パーパスってカタカナだし英語だし、それだけで引いちゃう人もいるじゃないですか。そうするとすごくもったいないので、ちょっと言い換えて「生きがい」と同義な部分もあると思います。
大きな四つの円が交差していて、黄色は自分が好きなこと、愛しているもの。緑は自分の職域や、得意なこと。それからピンクは世界が求めていること、そしてブルーがあなたが何か貢献したり関わった時に対価が支払われるもの。パーパスに関して言えば、お金になる・ならないはさておき、さまざまなこの大切な4側面があるうち、全部が重なっているところが「生きがい」になります。
齊藤(SMO):企業のパーパスを導き出すフレームワークとして私たちも、社会のニーズ、組織のパッション(情熱)、組織の強み、これらが交差するところであるとして、探って明文化しています。組織と個人という違いはあれど、同じですね。
島田:個人のパーパスを考えるとき、一番最初に思いつく問いが「どんな人生を送りたいか?」です。自分のパーパスが何かわからない時には、一度立ち止まって「どんな人生を送りたいか?」「自分の人生にどんなイメージを持っている?」と問いかけてみてください。
この問いはすごく深くて、すごく広くて、でも必ず問われた人に変化と気づきをもたらす問いなんですね。手で書くのがおすすめで、どこかにメモしておくと刻み込まれます。
平原(SMO):島田さんの生きがいはどんなことで、どのようにして見つけたのでしょうか。
島田:私は「どんな人生を送りたいですか」と聞かれたらやっぱり「自分らしくある」ということと、「ハッピーである」ということ、この二つに集約されるなと思ったんですね。これをいかに実現できるかと考えたことが私の旅の始まりで、思い返すと中学校1年生か2年生の頃、すごくいじめられた体験から、この「自分らしくある」ということにすごく気づきがあったんですよね。
私が自分らしくあってHAPPYなのは自然の中にいる時なんですね。大自然を感じる、大宇宙を感じる、命の育みを感じる、あんな大きな岩が何万年という時間の中で削られてできるんだとか、あんな真っ白な雪がどうやって降ってくるんだろうとか、こういうときに自分らしさとハッピー、心から湧き上がってくるような幸せを感じるんですね。それから、地域の活性とかにすごくパーパスを感じていて、行った先行った先でものすごい繋がりを感じ、その度にありがたいなと思っています。こういったことが私のBE YOURSELFだとかBE HAPPYを作っているんですね。
齊藤(SMO):幸せに関する活動も積極的に行なっているとか。
島田:2025年までに日本の人口の25%の方が、ウェルビーイングである状態、つまり幸せである状態を作るPERMA25JAPAN(https://perma25japan.com)という活動に燃えています。これは2018年からスタートしして、私のパーパスの一つでもあります。
PERMAを私は「幸せ」と読み換えましたが、ポジティブ心理学という学問からわかっている、自分の幸せ、ウェルビーイングを高める5つの要素なんですね。このPERMAが高いなと感じる人を3000万以上増やしたいなと思っています。
齊藤(SMO):PERMAが高い、つまり幸せな人というのは、具体的にはどのような人を指すのでしょうか?
島田:BE HAPPYは自分が幸せであるとともに、関わる大事な人達が幸せであって欲しいと心の底から思うところに繋がります。人のことを幸せにしたいと思う人こそ、自分がハッピーじゃないとそれを実現できないんです。
人のことばっかりいいように見え、自分の中がスカスカだと、人に手を差し伸べることができなくなっちゃったり、貢献することが目的になってしまって、すごく疲れたり、本当はやりたくないのにやり始めてしまったり。これは全然BE HAPPYじゃないんですね。これはパーパスから少し遠ざかっていってしまっているようなことだと思います。
齊藤(SMO):では、島田さんのパーパスを、ズバリ一言で言うと?
島田:「すべての人が笑顔で自分らしく生き豊かな人生を送る社会を創る」これが私のパーパスです。このために私はこの世に生まれてきました。笑顔の状態も人によって様々で、ニカーって笑う人もいれば、ちょっとほくそ笑む人、笑ってなさそうに見えて目が笑っている人もいて、いろいろあると思うんですけど、それもその人らしくあればよくて、あ〜私らしいな、俺らしいなって思ってる人で埋め尽くされている、そんな社会を創るということを自分のパーパスとしています。それをやるために、地域活性というのと、ワーケーションを手段の一つとしてやっています。
川で仕事をやるからカワ―ケーション、沢でやっているからサワ―ケーション、岩でやっているからイワ―ケーションみたいな感じで(笑)、そういうのも大事かなと思って。これは私もハッピーだし、癒される。今日もそれで、和歌山からリモート参加しています。
齊藤(SMO):ウェルビーイングというものがさけばれて何年も経ちますけど、リモートワークが急速に進んだりもあって、ようやく実現に近づいて来ている感じもありますよね。
島田:タル・ベン・シャハー博士という、ハーバードで人生を変える授業をやっている、ポジティブ心理学の権威の教授が、「自分のウェルビーイングを知る5つの切り口=SPIRE」というとても大事なことを言っています。自分のウェルビーイングってどんなところからくるんだろう、と考えたときに、すべての人がこの5つの切り口を持っているということです。
「PERMA」と、この五つの切り口である「SPIRE」は両方ともウェルビーイングに関わることだけれども、なんの目的で作られているのかという点が違うんですね。この「SPIRE」は自分のウェルビーイングがどこから来るのかを知り、それを保つために必要な切り口なんです。
S=Spiritual、P=Physical、I=Intellectual。R=Relational。E=Emotional、この5個はすべての人間がもっていると。この中で、より自分にとって意味がある、大事なものが1個か2個あるんですね。それを知っている人はすごく強いんですよ。Sはさきほどの自然の中で森羅万象を感じて、自分と宇宙の繋がりにすごく心が温かくなっているような。Pは体を動かすのが好きで、運動していないと調子が出ないとか。Iは知的な活動ですね、本を読むでもいいし美術館に行ったり、絵を描くとか、そういうインテレクションなこと。Rというのは関係性で、誰かとの関係、自分の大切な人との質の高い時間を過ごすとこと。Eは感情で、ネガティヴな感情もしっかりと受け止めながら、楽観的な視点を持ってポジティブな感情をより大きくできる、というような意味です。齊藤さんと平原さんにとってこれが一番大事だなというのはどれですか?1個か2個選んでみてください。
平原(SMO):完全にSとRです!
齊藤(SMO):私はIとEかな。
島田:いいですね、選んでくださった1つや2つを意識して絶対に欠かさないようにした方がいいですよ。この大事なもとがちゃんとあると他のものも上がってくるのね。大事なものがなくなると、他のものがあったとしてもあまり調子が出なくなっちゃうんです。
齊藤(SMO):なるほど。興味深いです。では、島田さんが考える「ウェルビーイング」とは何ですか?
島田:ウェルビーイングもハッピーも、「幸せ」と日本語で言ってしまっているけど、ハッピーはポジティブ感情といわれるものの一つで、一瞬一瞬上がったり下がったり変わったりする短期的なものです。
でもウェルビーイングというのは状態、良い状態というもので、ちょっと中長期的で、この三ヶ月間いい感じ、というような。両方とも日本語にすると幸せというんだけれどもちょっと違う。
この二つを合わせてHappinessという言い方をします。今この研究が進んでいていろんなことがわかっていて、パーパスを持っている方はウェルビーイングが高いっていうことがわかっている。
かつ、いろんな研究があるなかで私が大好きなのが、ハッピーな人はそうでない人に比べて、生産性が3割高く、営業成績は37%高くて、創造性はなんと、三倍!
ウェルビーイングの研究もいっぱいあって、ウェルビーイングであることが、健康、長寿、素晴らしい人間関係、仕事のパフォーマンスと創造性の向上、社会への参加・社会性のある行動、レジリエンスの向上に繋がるということがわかっています。
たとえば社会への参加度を高めていくし、仕事のパフォーマンスも高い。
齊藤(SMO):エスエムオーで実施した調査レポート(https://www.smo-inc.com/news/n_20190308.html)でも、パーパス意識の高いビジネスパーソンは、組織への帰属意識、新しいことへのチャレンジや積極性、仕事をやり抜く力において、そうでないグループより優れている、という結果が出ました。つまり、彼らはハッピーでウェルビーイングな人たちである可能性が高いということですね。
島田:ウェルビーイングが高い人は、免疫が高いということもメディカルデータとしてわかっています。だから今のコロナ時には最高じゃないですか。やはりパーパスというものを考えていく時に、自分がどんな人生を送っていきたいのか、なぜ生まれてきたのか、なんのために自分は存在しているのか、すごく深淵な問いになるんですね。
そうするとですね、面白いんだけど、こういうことしたい、あれが欲しい、等いろんなニーズに対して全部、なんで?どうして?って突き詰めていくと、全部最後に幸せに落ちていくんです。この幸せであるということは私たちの永遠の課題であって、幸せになろうとすると、幸せがどんどん不幸せになっていくということもわかっているんです。幸せ「に」なることじゃなくて、幸せ「で」あるということを選んでいくということなんですね。
だからパーパスも、自分で決めていっていいんですよ。迷いなく、これだなと思ったら一回やってみたり続けてみる。違うと思えばまた考えればいいし感じればいい。こんなことを続けていくと最終的にはパーパスがあなたのことを見つけてくれるという。そういう表現もあったりします。
私としては、すべての人に直感を信じてあまり難しく考えず、人生どんな瞬間を生きたいのか送りたいのか、こんなところから皆さんが旅を始めていただけたら嬉しいなというふうに思います。
平原(SMO):よく、何か一度掲げてしまったらそれをあんまり変えちゃいけないのかなって、それが逆に重荷になってしまうときもあると思うんですけど、今その時に自分がどんなことをしたいのか、どんな社会に貢献したいのか。それで良いということですね。
島田:なんか崇高なものじゃないといけないんじゃないかとか、大きなものじゃないといけないんじゃないかというのもなくて、どんなことでも、あ、と思ったら、自分の幸せにつながるなと感じるもの、自分が幸せだなあと思うものであれば、そこを糸口にしながら、すべてパーパスに繋がっているんです。
齊藤(SMO):個人のパーパスからハピネスまで、今時代が求めてることって、個人でも企業でも全部同じなんだなとつくづく思います。
最後に、島田さんはユニリーバの人事総務本部長としてご活躍ですが、個人のパーパスと全く関係のない仕事や配属部署に就いていたりして、生きがいを感じられないような方への、アドバイスはありますか?
島田:ユニリーバの場合は、本人の希望やパーパスを第一に考えて常に対話をしているので、そういうことが起こることがあまりないです。とはいえ、自治体だったり、言い方は正しいかわからないけどいわゆる日本的な企業だったりでは、一定の期間を経て必ず異動配属があったりして、ガッカリしている若者に会うことも多くて…。私はそういう人事のやり方は本当に意味がないと思っていて。でも、誰しもそういう企業で働くということを選んでいるという自分にも責任があって、辞めるということも選択肢だと思うし、とはいえその会社には何かやり遂げたいことがあって入っているはずだから、ではその中でどう喜びを見出すかをゲームと思ってやってみる、そういう状態の方がイノベーションは起こりやすいんですよ。まず発想の転換で、いかにポジティブに捉えるかの練習だと思ってやるか。または辞めるか、ですね!
齊藤(SMO):何事も捉え方次第ですね!本日は、ありがとうございました。
インタビュアー:齊藤三希子、平原依文(SMO)
島田由香(しまだ・ゆか)
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス取締役人事総務本部長(CHRO)。
1996年慶応義塾大学卒業後、パソナ入社。2002年米コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。08年ユニリーバ入社後、R&D・マーケティング・営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て13年4月取締役人事本部長就任。14年より現職CHROとして、独自の人事施策を多数実行。