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  • 執筆者の写真SMO TOKYO20xx Team

鷲田祐一教授インタビュー:リーダーには想定外の未来を読む力が求められる

更新日:2023年9月6日



<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2019」からの抜粋です。タブロイド誌全編及び最新版の全編は、こちらよりダウンロードいただけます>


 

これまで未来を考えるには、技術を中心に現在の延長線上にある未来を予測することが中心でした 。しかし 、予想もしていなかった事が数多く起こっている現在を見ると、未来を考えるときにも、現在の延長線上ではなく、ジャンプした「未来洞察 」にますます注目が集まっているのも当然と言えます 。


SMOでは、クライアントのパーパスを策定する際に、世の中のニーズを把握するフェーズの中で、潜在的なニーズを探る必要性があり、それを未来洞察の手法を使って探っています。


一橋大学で、この未来洞察について研究されている鷲田 祐一先生に 、リーダーに必要な「未来を読む力」について、お聞きしました。



齊藤:絶え間なく変化する世の中に対し、特にリーダーには時代を読む力、未来を捉える力が必要になってきています。まさに鷲田先生は<未来洞察>を研究されていますよね。そもそも先生は何をきっかけにこの研究を始められたのでしょうか?


鷲田:今から15年ほど前、私は博報堂のコンサルティング局に在籍し、NTTドコモのマーケティングプランナーを務めていました。あるとき、いつものようにクライアントを訪ね、業界や市場のトレンドを報告すると、「最新動向については我々の方が熟知しているから、この先に起こることを教えてほしい」と言われたんです。当時、通信業界では第3世代移動通信システム(3G)の展開が始まろうとしていましたが、どのように商用化していくべきか、誰も理解していなかった。そこで、何か糧になるものはないかと探したところ、アメリカで実践されていた“スキャニング”(現在の“ホライズン・スキャニング”)という手法に行き当たったのです。


齊藤:現在の延長線上にある未来予測とは異なる、想像もしなかった未来を洞察することが目的ですよね。


鷲田:技術革新に伴い、未来に向けて社会がどのように変化しうるのかを様々な仮定や幅広い視点から洞察し、多様なシナリオを立案するというものです。例えば「遺伝子組み換え作物」は世界で物議を醸していますが、これは技術革新ばかりに気を取られて、社会がいかに受け取るかを勘案できていなかった結果と言えるでしょう。こうした想定外の事態に備えるために<未来洞察>は有効であると私は考えています。


齊藤:昨今、想定外のことを知りたいという需要が増えているように思います。


鷲田:同感ですね。これまでの技術の進歩は10年スパンで語られることが多かったのに対して、AIなどは、その半分の期間を基準にしなくてはならないほど、別次元の発展を遂げつつある。技術の進歩が飛躍的に速まっているにもかかわらず、従来のスタンスを貫くならば、確実に時流に乗り遅れるでしょう。それから、世界経済の変容も深刻です。今や、世界経済のバランスは、先進国からアジアの新興国にシフトしている。中国やインドなどでは、自分たちの暮らしをより良くしたいという強烈なニーズが存在していますが、一方、日本の消費者は、その飽和した市場の中ですでに一定の満足感を得てしまっていますね。


齊藤:日本人はある一定の満足感がありつつも先進国は経済成長が停滞し、先行き不透明な状況に陥っている。


鷲田:ええ。もうひとつ、日本に関して少子高齢化が影を落としています。かつてのように多くの若者が高齢者を支えるという前提で設計された制度はもはや破綻をきたし、根本的な見直しを余儀なくされていますが、手本になる国が見当たらない。それゆえに、行政も、民間も、知りたい、考えたいという欲求が高まっているのでしょう。


齊藤:リーダーや経営者の方々にお話を伺うにつけ、“統率力”と“時代を読む力”が必要だと実感するのですが、“時代を読む力”はどうすれば身に着けられるでしょうか。

鷲田:とにもかくにも当事者意識を持ち、考えることです。多くの経営者層はサラリーマン文化の中で生きてきたので、受け身の姿勢が染みついてしまっています。それが顕著なのが団塊の世代です。のらりくらりとやっていればなんとか乗り切れるという甘えがあるように思えます。私は一橋大学の大学院で教鞭を執る中で、<未来洞察>の手法に手ごたえを感じてきました。つい最近も、学生がこれを使って書いたシナリオを見直していたのですが、2012年の段階ですでに「グローバリズムが進みすぎて、ナショナリズムが強くなる」という推察を導き出していたんです。


齊藤:リアルなシナリオです。ところで、この<未来洞察>を経営にどう活用すればよいでしょう。


鷲田:例えば、新規事業部を立ち上げたものの、具体的に何をすればいいかわからないというとき。普通は技術を持ってきてどうこうとなりますが、先ほども申し上げたように、昨今、技術は目覚ましく進歩していますし、社会の変化をしっかり見極められなければ、新たな開発が徒労に終わりかねません。その予防線を張るのに効果的だと言えるでしょう。また、組織を細分化することで、似たような作業を行う部署がいくつも存在してしまうことがままありますが、そこでも<未来洞察>は重宝するはずです。


齊藤:具体的にはどのように?


鷲田:そういう状況下では時として意見の食い違いが発生し、経営に混乱が生じかねませんが、それを避けるために、経営者の直下にシンクタンク的な部署を作り、そこで<未来洞察>の手法を活用して統一的な“未来年表”を作るんです。その仮定に基づいて、技術も人も資金も動かしていくのです。現在の延長線上で未来を考えても、新たなビジネス機会は生まれません。自分たちが“知らないことにすら気づいていない”領域にまで発想を広げ、適切なチームで設計することで、継続的なイノベーションは可能になります。未来の不確実性を積極的に事業に織り込み、チャンスに転換していくことが、これからの時代においては重要ですね。


齊藤:先生はトレンドになるだいぶ前から「イノベーションにはデザインが不可欠」「デザイン経営」ということもおっしゃっていました。

鷲田:そうですね。デザインもそうですが、今はリーダー・経営者にとって、“アート経営”が重要かと思っています。といっても美術館に行け、というものではなく“問題・課題を発見する力”が重要という意味です。これまでに、課題を解決することに注力していましたが、今、これからは問題・課題を発見(≒クリエイト)することが、経営者の仕事になります。そのためにも、<未来洞察>が必要と考えています。

インタビュアー:齊藤三希子

 

鷲田祐一(わしだ・ゆういち)

1991年に一橋大学商学部経営学科を卒業。(株)博報堂に入社し、

マーケティングプラナーになる。その後、同社生活研究所、研究開発局、

イノベーション・ラボで消費者研究、技術普及研究に従事。また2003年~2004年に

マサチューセッツ工科大学メディア比較学科に研究留学。2008年に東京大学大学院

総合文化研究科広域科学専攻博士後期課程を修了し、博士(学術)となる。

ハイテク分野において、いわゆる「イノベーションの死の谷」現象がなぜ発生するか、

克服には何が必要か、という視点から、ミクロ視点での普及学を研究。

その延長としてユーザーイノベーション論、シナリオ構築による未来洞察手法、

デザインとイノベーションの関係なども研究している。

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