SMOのアメリカ在住コンサルタント Justin Leeによる、パーパス経営のヒント「パーパス・ドリブン・ブランドの戦略から学ぶ」。 今回はKPMGのケーススタディをご紹介します。
(KPMG:監査、税務、アドバイザリーに関わるサービスとソリューションを提供しているグローバル規模のコンサルティング・ファーム)
–KPMG パーパス浸透のケーススタディ –
2018年7月・8月号の米ハーバードビジネスレビュー誌のパーパス特集でも取り上げられた、パーパスにおける有名なKPMGの事例を紹介しよう。
パーパスの定義
KPMGは2014年、それまでの保守的な文化を、イノベーティブな文化に切り替えようとパーパス策定に取り組んだ。そこではまず、自社の歴史を掘り下げ、数百人の社員とヒアリングをし、その結果、彼らは自社のパーパスは「Inspire confidence and empower change」(社会に信頼を、変革に力を)だという結論にたどりついた。
(動画内 日本語訳:)KPMGがしていることー一我々は、歴史を作っている 第二次世界大戦中のレンドリース法制定にあたって、ルーズベルト大統領はKMPGの助けを求めた。 フランスやヨーロッパのほとんどが陥落、次はイギリスという時。 ウィンストン・チャーチルはルーズベルトを頼り、レンドリース法が制定となる。 KPMGピート・マークィックのシニアパートナー ウィリアム・M・ブラックが召集され、「民主主義の武器庫」と呼ばれる連合軍に600億ドルにもおよぶ支援を送った。KMPGがしていることー 一我々は、家族の再会を実現する イランのアメリカ大使館人質事件で50人以上のアメリカ国民が444日間監禁されていた時、アメリカはKMPG-ピート・マークィックの助けを重要な局面で求めた。 最終決着をつけるために240億ドルが平等に振り分けられなかればならなかったが、KPMGは対立する双方を満足させ、人質は解放された。KMPGがしていることー 一我々は、民主主義のために戦った 歴史的な選拳で国民の信用が必要とされた時、KPMGアフリカ支部が立ち上がった。 選拳結果が不透明となる中、南アフリカは混乱の渦中にあった。 KPMGはそこで力を発揮し、選拳の平等性と正確性を保証した。 マンデラ・ネルソンは大統領となり、南アフリカは新たな民主主義国家となった。 我々は、あるパーパスのために存在している。社会に信頼を、変革に力を。
パーパスを起点とした社内ムーブメント
ここからが興味深い。同社は社員の巻き込みのため、社内浸透に焦点を当てた具体的な施策として、社内の人間のみならず外部でもアクセスできるKPMGパーパスの特設サイトを設置した。そのサイトに通じて社員達はビデオや記事などのコンテンツから同社のパーパスの定義の過程と経緯を理解できるようになっている。
パーパスを起点とした社内ムーブメント
ここからが興味深い。同社は社員の巻き込みのため、社内浸透に焦点を当てた具体的な施策として、社内の人間のみならず外部でもアクセスできるKPMGパーパスの特設サイトを設置した。そのサイトに通じて社員達はビデオや記事などのコンテンツから同社のパーパスの定義の過程と経緯を理解できるようになっている。
その後、個々の社員のパーパスの解釈を促進するため「10,000 Stories Challenge」というキャンペーンを社内で発足させた。27,000人の従業員に対し、1万枚のポスター作成プログラムを展開した。1万枚の目標が達成されると、従業員には二日間の有給が追加で付与される。
その仕組みを詳しく見てみよう。KPMGが配布したウェブアプリで従業員がポスターを作る手順はこうだ。:
用意された複数の背景から気に入ったものを選ぶ。
「What do you do at KPMG?(KPMGでやっていることは?)」という質問に回答する。(つまり、従業員に自分は何をしてKPMGのパーパス実現に貢献しているかと向き合わせる)
その回答は二つの部分(「ヘッドライン」と「あなたのストーリー」)に分けられた。
「ヘッドライン」では、「What do you do at KPMG?」に対する端的な答えになる。例えば、テクノロジーのコンサルタントであれば、「テクノロジー改革」を記入。
「ストーリー」では、上記の「ヘッドライン」を説明する。ここでは、自分の仕事は具体的にどのようにインパクトを作り出すか、どのように価値をもたらすのかを書き出す。
最後のステップは自分の写真やチームの社員をアップロードする。(このステップはオプション)
これでポスターが完成、送信されると、アプリ内に他の人の送信済みポスターの一覧が表示され、閲覧できる。
半年にわたり、なんと4万枚以上が提出された。その中で厳選され、ブラッシュアップされたポスターは、社外用キャンペーンでも使われた。
キャンペーンの結果
この社内キャンペーンを含む浸透施策に関する社内での事後調査では、社員自身の仕事へのプライドが向上し、エンゲージメントも高まったことが分かった。その結果、米Fortune誌の「Best Companies to Work For」ランキング(働きたい企業ランキング)では31位から12位に飛躍したという。
この調査にはもう一つ印象的な知見がある。パーパスを推進するリーダーの下では、その社員の9割が自社を素晴らしい職場だと考えるのに対し、推進しないリーダーのもとでは6割という結果が分かった。マネジャーや管理職によるパーパス推進の積極度は、従業員のマインドセットと忠誠心に大きく影響することが分かる。
パーパスを組織に浸透させる成功要因
パーパスを行動に移すために、弊社が提供する「ムーブメント」というフレームワークがある。すべての従業員がパーパスに基づいて行動する組織を実現するには、四つの重要な事柄がある。
「学ぶ」ことと、「確かめる」ということ
パーパスを深く理解するためには、「学ぶ」そして「確かめる」ことが必要である。その組織が掲げるパーパスを正しく学び、共感してもらうため、それに特化した研修やワークショップの新たな導入や既存の研修の組み直しを行う。それと同時に、パーパスの浸透度合いを把握するためのフォーマルな仕組みを社内コミュニケーションの中に組み入れる。
「見出す」ことと、「伝える」ということ
そして、パーパスへの強い信頼感を耕すためには、「見出す」そして「伝える」ことが不可欠だ。信頼するためのエビデンスを見出す。実際の仕事やプロジェクトをパーパスの視点で 省察する特殊なワークショップや、パーパスに導かれた象徴的なプロジェクトを行う。そこで見出された、現実に起こったパーパスに基づく判断や行動を、広く社内外に共有することで、パーパスが本当に自分たちにとって意味のあるものとなり、さらに新たなパーパスに基づく判断が創出されている。
SMO パーパス・ブランディングのムーブメントフレームワーク
KPMGの事例はなぜ優れているか
KPMGの事例では重要な学びがある。それを「ムーブメント」フレームワークで説明しよう。
KPMGのキャンペーンは、「学ぶ」、「見出す」、「伝える」を達成する、効果かつ効率のある取り組みであると考察できる。
【学ぶ】
従業員はアプリ内のワークに通じ、パーパスについて、自身の仕事がどのように置き換え、つまり、パーパスを解釈し、自分ごとかができた。
【見出す】
ワークを通じて、たくさんの従業員のストーリーが見出された。
【伝える(社内)】
従業員が仕上げたポスターをそのままツール化し、社内のあらゆる場面で展示された。
【伝える(社外)】
従業員が作成したポスターを外部コミュニケーションに賢くつなげた。
一体感が生まれるコツ
そして、2日の有給というインセンティブを取り入れた全社イベントにすることで、一大イベントとして、参加モチベーションと一体感が作り出されたことも一つの成功要因といえよう。
無論、「学ぶ」、「確かめる」、「見出す」、「伝える」をそれぞれ個別で施策を考えて実施することも可能だが、KPMGでは、特に「学ぶ」、「見出す」、「伝える」を意識し、あらゆる施策と要素を組み合わせ、効率的で一貫性のあるキャンペーンに仕上げることができた。これがこの事例の重要な学びである。
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