top of page
  • 執筆者の写真smo inc

コモンズ投信渋沢氏に聞く、サステナビリティ投資と人的資源、そして企業の持続性との関係

100年以上も前に“論語と算盤 ”で企業のサステナビリティを論じた渋沢栄一。その玄孫であり、「SDGs投資 資産運用しながら社会貢献」など多くの著書を持つ渋沢健さん。

サステナビリティとプロフィットを両立させるには?

そして人が重要となる今後、経営者が今後とるべき対策とは?

(※渋沢氏の漢字表記は本来は「渋澤」ですが、フォント表示の関係上「沢」表示に統一をさせていただいております)


(インタビュー:SMO 齊藤三希子)


 

サステナビリティ投資の原点


齊藤:サステナビリティ投資の日本における先駆者である渋沢さんにまず、サステナブルに着目したきっかけをお聞きしたいです。

渋沢さん:振り返ってみると、9.11ですね。2001年3月に自分の会社を立ち上げて、アメリカ出張中に同時テロが起こりました。1週間ほどシアトルで足止めされ、雨が多いシアトルでもその日は綺麗な青空で、飛行機が一機も飛んでいない。それまで20代後半〜30代の自分は金融トレーディングをしていて、端末や電話一本で何十億円、何百億円、何千億円を動かすのが当たり前という環境で仕事していました。そこから独立して小さな会社を立ち上げ、長男が生まれ、妻が次男を妊娠している時に9.11が起き、飛行機が飛ばない、人も動かないで、頭がからっぽになって、どうやって自分の家族と会社を持続させることができるのかがわからなくなった瞬間でした。

その時、平和は空気みたいなものだなと。あるのが当たり前であまり意識することはないですが、失われた瞬間大変なことになる。そういうショックが自分の中で起きていた最中、私が退職したアメリカの大手ヘッジファンドの創業者がすぐに自分のお金で近所の消防隊員の遺族のための基金を立ち上げたんです。アメリカではプロフィットとノンプロフィットセクターが直接つながっていて、社会的課題は税金ではなく自分で直接介入するっていうダイナミズムがあるのは知っていたのですけど、ここにすごく関心を持ちましたね。

戦争はなぜ起こるのかというと国同士が戦争するわけですが、誰も望んでないのに一部の人たちの行動で起こってしまう。

平和という言葉を使った時に、一人一人の思い、行い、支持者の思いがあることによって平和や社会が維持されているということなんです。そこは一つの原点でした。

齊藤:原点はそこにあったんですね。サステナビリティと言う言葉は当時から一般的だったのでしょうか?

渋沢さん:当時、持続可能性とかサステナビリティという言葉は私は使ってなかったのですけど、使い始めたのは、数年後コモンズ投信という会社を立ち上げて、一般の投資家向けに、今の自分の利益だけでなく、10年、20年、30年先の自分の将来、または自分の子供のために積み立てていきましょうという思いで始めた時からです。

立ち上げた理由は、遡って子供が生まれた話に戻るのですけど、このちっちゃい可愛い赤ん坊がいずれ成人になって手を離れ、何か新しいことにチャレンジするはずで、それを応援する資金を作ってあげたいと。貯金でも良いのだろうけど、成長とともに成長を応援するファンド型で積み立てていく、成長性のある積み立て投資の提供を開始しました。

まあ、子供は親バカの期待値とは違うものになってくるというオチがあるのですけどね(笑)

ただ、親が子供に対して今日よりも良い明日を期待し、願うことはどの国でも存在しているものだと思ったので、それを表現できれば良いなと思って作ったのがコモンズ投信のファンドです。だから子供が将来成長していって、社会の一員になるという長い時間軸で考えた時に、子供を通じてサステナビリティーを感じ、投資先の企業も、今期の利益という話だけでなく、持続的に価値を創っていくということがお互いにとって大事だなと思ったんです。

企業価値を見る時に株式市場では株価があって、それは企業の将来の価値を表現したものですけど、多くの場合、それは財務的な価値や、売上や利益のことですね。でその売り上げが伸びているのであれば成長がくるのだろうと言って株が上がり、売上が伸びないのであれば逆が起こる。将来の期待性を反映したものが株価です。満期償還がある債券と比べると、株式には償還がなく、成長がなければ株価上昇することはない。そう考えた時に、今の会社の状態も必要だが、長期投資を見るなら「その会社は持続的な価値を作れるのですか?」という思考の流れになったわけです。



持続的な良い会社とは


齊藤:渋沢さんが考える「持続的な良い会社」とは、なんでしょうか?

渋沢さん:日本の会社で、この3つの言葉さえ使わなければかなり良い会社がたくさんあると思うんです。それは

・「前例がない」

・「組織に通りません」

・「誰が責任とる?」

の3つ。

前例がないというケースは、じゃあ前例一つも作らなかった会社って果たして持続可能なんですかと。

組織に通りませんというのは、担当者の判断ではいいと思っているが、組織に通らないと思っているということ、そこは組織に通すように「仕事しろよ」と言うことです(笑)

そして、誰が責任取るって、それは本人、上司、社長です。質問する必要ないですね。

この3つは日本の金融界で30年聞いてきて、今だにいろんなところで聞きます。業界に成長がなかった30年ということですね。

齊藤:この3つの言葉がなければ、持続的な良い組織になれる可能性が増えるわけですね。渋沢さんは、短年の成長はあまり見ずに、10, 20年の持続的な成長、価値を見るということですが、10,20年、さらにその先も続く企業でありつつ、成長も続けていくというのは、なかなか大変なことだと思うのですが、そこを乗り越えるにはどうしたら良いのでしょうか?

渋沢さん:企業の今の状態の、将来に対するシグナルは色々読み取ることができて、子供の成長に例えるなら、その可能性のシグナルは成績を見るという面があるけど、でもそれだけじゃなくて、他も含みます。実は株式投資で一番買わなきゃいけない時は、こいつだめだよねって皆が手放した時ですが、同じように中学校での数年、悪い成績を取ったからと言って、その子供に将来性がないのかというとそうじゃないですよね[1]

また、非財務的な価値はなかなか可視化できません。ただ、見えない価値を可視化するのは見えないから意味ないよね、で済ませるのではなく、大事なのは、試行錯誤でも「どうやったら価値を可視化できるんだろう?」と問い続けることではないかと思います。企業もそうだし、投資家もステークホルダーもそうなのではないかと思います



ESG視点で見えない価値を可視化


齊藤:それを15、20年前から考えられていたというのは、すごいですね。

渋沢さん:人間は一番簡単な答えを求めるので、だから売上や利益などが、会社だろうが投資家だろうが上司だろうが社長であろうが共通言語になる。逆に非財務的なところで、めちゃいい会社だよね、パーパスドリブンだね、って言われても、共通言語がない。それを探そうとしてやっているのが、非財務の情報開示。そこでESGですね、日本では2015年に一気にこの概念が広まりました。

コモンズ投信のコモンズ30ファンドは、2009年設定時はESGファンドとして立ち上げたわけではなかったですが、ESGという言葉が普及し始めたときに、企業の多くから「みんなESGっていうんだけど、G(Governance)だけなんだよね、、」と悩んでいらっしゃいました。Gやってなければ、EとSはできないから当然の順番ではありますが。またGは、三つか四つの数値で会社の状態がわかるから、数値化しやすいんです。だから、Gから始まった。

その次に測り易いのはE(Environment)です。問題を肌で感じられるし、温暖化ガス等CO2換算したり、「科学的根拠」を示しながら数値化しやすいですね。国境を越え、文化をこえる一つのスタンダードとして科学があります。

では、S(Social)についてなんですが、一体なにを測ればよいのか、他と比べて何を見たらいいのか整理されていないのが現状だと思います。ISSB(「International Sustainability Standards Board」の略称で、「国際サステナビリティ基準審議会」)が去年正式に始まって、そういうグローバルなサステナブル指標を定めましたが、Sに関してはグローバルスタンダードができるのはもうちょっと先だと思います。

一方で、Sにおいて人に焦点をあてると、人的資本をどのように高めるかが重要です。それがなければどの会社も将来的な価値を作れるわけがないので。

 

日本企業と「人」

齊藤:そうですね。日本企業が人的資本をどのように高めることができるのか、渋沢さんのお考えをお聞かせください。

渋沢さん:日本はメンバーシップ制で、みんなで一緒に価値をつくっていこうみたいな概念が一般的である一方、海外は人材を使い捨てているように見えるかもしれません。でもこの30年間を見ると、どっちが価値を創って賃金が上がりましたか?と聞くと答えは明らかに日本以外ですよね。

日本企業は、Eについてはエコって言葉を90年代からずっと使っていても、気づいたら世界では出遅れてるし、Sのほうも、ずっと「三方よし」って言ってきましたからといっても、いかにHumanCapitalを育てることが会社の価値につながるかというロジックモデルを作らなきゃいけないと思います。簡単なことではないが、日本がGlobal Standardを決めることは難しいとしても、少なくとも日本がルールづくりに参加することは積極的に関与すべきだと思います。

齊藤:日本がルールを決めるー 大きな話になってきましたが、なぜそう思われるのでしょうか?

渋沢さん:今の社会の方のSの流れは欧米的にいうとバリューチェーンの中の人権とDiversityの傾向です。だけど、Human Capitalに焦点当てましょうって言っているのは日本の特徴だと思います。人に投資することで将来の価値が高まることです。 

エーザイという製薬会社の全CFOの分析の場合、同社の賃金・報酬が高まると遅延してPBR(純資産倍率)と相関が正であるという結果になりました。因果関係とは言い切れないけど相関があります。その後、同社の製品を通じてポジティブなインパクトが生じていることも示しています。

インパクト加重会計という考え方が関心を集めていますが、これは、従業員、顧客、環境、社会等に対すESG企業活動の正・負のインパクトを算出し、財務. 諸表記載情報を補足する取組みです。環境的・社会的なインパクトが企業会計に反映されれば、企業の行動も変わりますね。

齊藤:先程「三方よし」が出てきましたが、これは否定しようがない言葉なのですが、それで終わってしまっているようなケースも見受けられます。

渋沢さん:三方よしはすばらしい概念ですが、なにが「よし」なのかを測定しないという課題があります。売り手はどれぐらいよくて、買い手はどれぐらいいいのか、世間はどれぐらいいいのか。つまり、「よし」のインパクトを測定していなのですね。

また近代的な三方よしを考えると、消費者、従業員、投資家の三方で、「よし」を測定することが重要ではないでしょうか。

齊藤:ウェルビーイングもいいと思いつつ、どこかモヤっとするのは多分そういうところなんだろうなと思います。良いけど測定できていないからなのですね。

渋沢さん:あと、日本はWHATとHOWにすごくこだわりますね。日本の教育はWHATとHOWしかやっていないから。

齊藤:わかります!パーパスはどこの企業がやったの?と他社事例からまず聞かれて。

渋沢さん:そう、そして、HOW。どうやったらいいパーパスできるの?と。だから急に「WHY?」って聞いても、はてなと答えられない(笑)

あるグローバル企業の外国人幹部から見て、日本チームは、真面目で勤勉、だけど、結果にコミットしない。その割に、プロセスばかりこだわると。つまり、結果にコミットすると失敗するのが怖いが、プロセスにこだわれば、失敗にはならなく組織的にはオッケーとされてしまう。プロセスへのこだわりがあるからこそ、日本のハイクオリティができた、というのはありますが、プロセスを気にするがあまり、結果が伴わない・・・これが現在の日本企業の問題ですね。プロセスを気にするってことは、前例がないことを嫌い、前例がないのにコミットしようとすると、それは前例ないよね、と却下されるわけです。


日本の課題は、アウトプットに対する評価の仕方


渋沢さん:人的資本に投資すれば新たな価値を創れることは目に見えています。日本は技術は素晴らしく、インプットのリソースだけを考えれば世界一、僕はそう思うんです。ただ、アウトプットを測定するのに、どれくらい仕事に時間かけましたか?とか、会社に「行くこと」が仕事みたいになっている。コロナでようやく、時間だけでなく、結果を出すことが大事だと気づき始めましたね。そういう意味で日本企業はインプットでは問題ないが、アウトプットのところに何をもって評価しているのかが課題だと思います。


齊藤:日本の企業は重要な転換期にきていると思っていますが、渋沢さんはどのようにお感じでしょうか?

渋沢さん:はい、特に日本の大企業は重要な転換期にきています。

一つは、日本の人口動態をみると、昭和時代では人口が多い団塊世代が、日本を大量消費、大量生産で創ってくれたわけですね。でも平成時代になると、団塊世代と団塊ジュニアの人口が膨らんでいるひょうたん型社会になった。でも、企業だとちょっと違います。バブル入社、つまり50代半ばに差し掛かっている人たちが一番多いでしょう。30年間働いてきて、これからもう一つポストがあるかもしれない、もうちょっとで退職金もらえて退社すると考えている人たちで、且つ、年功序列の会社で一番お金もらってる層です。目先にそれがあるとしたら、変化は起こしたくないですよね。ある関西企業の経営者は、この層を「粘土層」と呼んでいました。上から水を注いでも下へ浸透しない。また、下からも水が上がってくることない(笑)。

ただ、今から10年後どうなるかというと、一番社員数が多いその世代が会社からはいなくなって、その高かった人件費を次の若い世代に回すことができる。会社のコスト構造が高まり、「水通し」もよくなる。が、このような状態があと10年も経たないうちにくるのを、理解していて対策しているかどうかが重要です。 

企業に入る人口も少なくなってくるわけですが、Z世代とか、10代から20−30代の世代に期待ですね。その若手に、ちゃんと責任を与えて自己実現をできるような業務をアサインできるかどうかで、10年後の企業は全然違っているでしょう。

 


経営者は若者が活躍できる場を

齊藤:経営者は若者が活躍できる場を提供することが重要ですね。

渋沢さん:上のほうの層に、サステナビリティというと、最近の若者は大変だよなとかで済ませてしまうわけです。株主などがいかに進んだマインドを持っていても、経営者がそれに応えられないのであれば 置いていかれてしまいますね。上司が、責任は俺がとるからやんなよ!と若い世代に渡せる会社に期待したい。

齊藤:まさに今が分岐点ですよね。逆にいま出来なかったら…

渋沢さん:そう。企業がなくなるわけではなくても、バイタリティがなくなるし、そういうところに優秀な人は残らないですね。その会社で自己実現できるのかを見て、30年待たなきゃいけないなら若い人は辞めますよね(笑)。 


パーパスの役割

齊藤:最近の多くの企業がパーパスを導入する流れはどう感じていらっしゃいますか?

渋沢さん:いいと思うが、バズる言葉になってはいけないと。ミッションはWHAT WE DO、パーパスはWHY WE DO 。そういう意味ではパーパスはかっこいい言葉で表現するPR的なものだとだめで、WHYに対する答えになっていることが重要です。

また、WHYという問いは、WHERE, WHAT, HOWと異なり、プログラムやコーディングはできない、人間にしか問うことができないのではと思っています。

会社があなたのパーパスはこれ!と言うのではなく、それぞれの社員が自分の言葉で自分の考えを持っているということがすごく大事だと思います。そういう社員が集まって会社のパーパスと合致する、それでこそすごく強いものになっていくと思います。  

 

齊藤:それでは、最後の質問です。渋沢さんの会社のパーパスは何でしょうか。

渋沢さん:より良い社会を未来世代に残すことですね。

齊藤:まさに、パーパスがサステナビリティに直結するわけですね。 未来世代に残す、というところは、SMOのパーパスと合致していて、ぜひ今後も同じパーパスを持つ同志でご一緒できればと思います。本日は、ありがとうございました。

 


渋沢 健 (しぶさわ・けん)


シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信(株)に改名し、会長に就任)。著書に『渋沢栄一 100の訓言』、『SDGs投資』、『渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え』、『銀行員のための「論語と算盤」とSDGs』、他。「論語と算盤」経営塾 主宰。

(※渋沢氏の漢字表記は本来は「渋澤」ですが、フォント表示の関係上「沢」表示に統一をさせていただいております)



 

<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2023」からの抜粋です。


タブロイド誌全編は、こちらよりダウンロードいただけます>

記事: Blog2_Post

CONTACT US

エスエムオーは、組織がその存在理由である「パーパス」を軸にした強いブランドになれるよう、
パーパスの策定から浸透までのコンサルティングを行うブランディング会社です。

bottom of page