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  • 執筆者の写真smo inc

都道府県として初のパーパスを策定。滋賀県のパーパス導入ストーリー

更新日:5月9日

パーパス策定企業の増加はすでにご承知の通りですが、自治体でも策定の動きがみられ、2022年には大分県の商工観光労働部が部のパーパスを、23年春には埼玉県入間市が市のパーパスを策定。そして、今年2月、都道府県としておそらく初であろうパーパス策定をされたのが、滋賀県です。今回のパーパスインタビューでは、滋賀県庁でこのパーパスプロジェクトを牽引された、滋賀県総務部行政経営推進課の 廣田 龍一氏(現教育委員会事務局教育総務課)、武田 博氏に、きっかけから策定・発表、そして今後の展開について、また、今後続く自治体パーパス導入へのアドバイスを、オンラインでお伺いしました。




 

齊藤:滋賀県が、都道府県として初のパーパス策定をされたということで、本日はぜひ、次に続く他の自治体への参考になる話が聞ければと思っております。まずは、パーパスを策定することになった背景をお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

廣田さん:「人こそが最大の経営資源」と滋賀県の経営方針でも掲げているんですが、毎年行っている職員アンケートを見てみますと、やりがい・ワークエンゲージメント・モチベーション、特に若い世代でそのあたりの結果があまり芳しくない中でみんながやる気を持って仕事に打ち込むためにはどうすればいいか、その一つがパーパスではないかと。今いる職員だけでなく、これから滋賀県庁に就職して将来の県の担い手になる方にも、滋賀県庁というのはこういう団体で、自分たちの仕事がこう社会の役に立っているという原点をわかりやすく示すものがあれば、一定の効果があるんではないかなと、そういう思いで策定することになりました。



自治体にパーパスなんて要るのか?


齊藤 :はじめはどなたが、いつごろご提案され、それに対して県庁内ではどのような反応だったのでしょうか?

 

廣田さん:2023年の年初の全庁向け挨拶で、三日月知事が「皆さん、滋賀県庁は何のためにあって、我々は誰のために働くのか。今年はパーパスを考えよう!」って話したとき、皆がざわざわ…!!って(笑)。「え、何それ、聞いたことないよね」っていう感じでした。


齊藤 :ざわついたんですね(笑)。


廣田さん:パーパスの概念を知っている職員はいても、それって民間企業の話で、自治体は地方自治法や地方公務員法の中であるべき姿が規定されているから、すでに答えは決まっているんじゃないの?って。


武田さん:民間の事業者の方だと、会社の利益を上げつつ、社会にどういう影響を与えるかと考えると思うんですが、我々の場合はむしろ最初から、県民のために働くというのがまずあるので、その当たり前すぎることを言語化する?!何のためにやるのかなって。


廣田さん:自治体は理念とか方針とか様々な計画を策定していて、滋賀県の将来ビジョンもすでにあったので、私達も最初は、「もうすでに理念はあるしなぁ・・・」となりました(苦笑)。ただ、パーパスについて調べていくうちに、自分たちのそもそもの原点、何のためにやるのかという初心を改めて言語化するというのは、他の理念やビジョンとはまた違うんだなと分かってきまして。ビジョンとか経営理念は、将来を見据えて新たに「作る」ものだと思いますが、パーパスは、“そもそもこの滋賀県庁という地方公共団体は何のためにあるのか”、今現在働いている私達だけでなく、何千人何万人と過去に県で働いてきた人たちの思いを探り当てることなんだと。ずっと受け継がれてきた魂みたいなものを掘り起こしたい、ということを意識して、「県のパーパスを”発掘”しよう!」と庁内で説明していました。


武田さん:知事は、投げかけのときに、理念というより、言霊(ことだま)という言い方をされました。いつも行政の計画で書くようなものとはちょっと毛色の違う、そもそも何で働くのかという心の中の話であり、またエンゲージメントに関することなので、他の理念とはアプローチも違ってきましたね。 


齊藤:まさに我々はパーパスのディスカバリー(発見)って呼んでるんですけど、探索して見つけ出すっていうところですよね。そして、お2人を含む、プロジェクトメンバーが結成されて、スタートしたのですね。

 

廣田さん:県の経営方針を扱う行政経営推進課と、県域の将来ビジョンを担当する企画調整課という二つの課が合同で事務局となり、まずはパーパスの概念について理解を進め、知事ともやり取りをしながら、どういうものとして作っていったら良いのかなど、スタート段階では最初の一歩を踏み出すまでにかなり悩みましたね。



キックオフから策定まで


齊藤:外部の協力会社を入れずに、自力でパーパスの策定を進められたのですか?

 

武田さん:元々ある動機、なんで私達が滋賀県職員として働くのか?というところは、自らで発掘していきたいと、自分達で進めていきました。SMOさんのパーパスについてのセミナーとか受けさせていただいて、わからないなりに本とか読んだり、企業さんはどんなふうにパーパスを策定・実行されてるのか調べたりしながら進めました。


齊藤 :それは凄いですね。ご自分たちでどのように進めていかれたのかぜひ詳しくお聞きしたいです。

まず、私たちがパーパスの発見・策定のワークショップを開催するときに、ステークホルダー、つまり自分達が誰に対して存在しているかを全方位的に考えるんですが、滋賀県では、どんな方々をステークホルダーとして捉えたんでしょうか。

 

廣田さん:まずは過去・未来も含めての県職員と県民の皆さんです。ただその「県民」という範囲も、滋賀県に住所がある人だけでなく、県内に働きに来られる方もいれば、観光で来られる方、県外や外国の交流都市の方・・・幅広い概念で捉えないといけないということを今回再確認しまして、広い意味で滋賀県に関わる全ての方ですよね。さらにいえば、琵琶湖、山、田んぼといった県土をお預かりしているのが滋賀県庁でもありますし、そこに住まう動植物、さらには琵琶湖から関西広域に向けて流れる水も大切に、···ステークホルダーっていう言葉からするとおかしいかもしれませんけど、人だけではないっていう思いがありました。


武田さん:結局全部ですよね(笑)そういうあらゆる仕事をしているのが滋賀県庁だと改めて確認しましたね。


齊藤:山や土地、自然みたいなところまで含めてというのは面白い視点ですね。県(自治体)がパーパスを策定するにあたって、先ほど「県民のために働く」のが企業との違いというお話もありましたが、他にも企業との違いで特徴的なことはなんだと思われますか?

 

武田さん:公益のために働いているという出発点が民間企業とは違うのがまず前提としてあって、ただ、公益のためだけに働くとすれば、隣の京都府さんでも、大津市役所さんでもいいんじゃないか?となるはずです。法律にやることは書いてあっても「なんで滋賀県庁なのか」の答えは書いてないんです。策定過程では、職員に、なぜ滋賀県庁なの?なぜこの場所(滋賀県)なの?って心の内にあるものを問いかけました。その「地域にこだわる」というところが、多分(民間企業とは)違うところかなと思うんです。みんな生まれたところで恩返ししたいとか、ここで育ったからとか、ここにいる家族のために何かしたいとかあって、パーソナルではあるんですけど、働くやりがいと近しいそこを探っていくと、地方公共団体が考えるパーパスの特徴があるのかなと思いました。

 

齊藤:そうしたパーソナルな心の中、やりがいなどを聞いてみて、浮き彫りになったことはいかがでしたか。

 

廣田さん:県庁っていう組織が好きかどうかは別にして(笑)、みな「滋賀県が好き」っていう素朴な思いを持って働いていることがわかりました。グループワークの形で進めたので、他の職員の思いも聞けて、そういう人たちで構成されている団体なんだなって、改めてわかったのは良かったですね。

齊藤:みなさんに、滋賀県愛があったんですね。グループワークというお話がありましたが、決定までのプロセスはどのようにされたのでしょうか。

 

武田さん:職員それぞれの思いについて意見を募集し、中堅・若手の職員を集めてワーキンググループを作って、本庁と地方の事務所へ計10か所回ってワークショップを開催しました。

ワークショップでは、先ほど言った滋賀県愛の話、やりがいを感じる時の話など、いろんな話をしながら、自分の働く意義というのを職員の中でまず出し合いました。また、知事を始めマネジメント層向けのセミナーも開催し、滋賀県庁のパーパスを議論してもらいました。こうした様々な意見をまとめた上で、経営会議と呼んでいる知事をトップとする幹部の会議に出して方向性を議論してもらった後、職員で候補案を作って、それを職員アンケートして、またその結果を経営会議の場に出して議論してもらいました。その後、県民のみなさんにも考えている候補案についてご意見をいただいて、その結果を経営会議に出して…。そして最後に、知事がこれでいきましょうっていう決定を出した形です。


廣田さん:上と下を行ったり来たり、ちょっとずつステップを踏みながら進めていったという感じですね。

 

齊藤 :かなり皆さんを巻き込んで作り上げていった感じですね。

 

廣田さん:できあがったパーパスがみんなの腹に落ちるためには、やっぱり多くの人に関わってもらってみんなで話し合ってというのが大事なんじゃないかと考えました。私たちだけで決めても駄目だし、知事1人が決めるのでもなく、みんなで思いを出しながら整えていって、最後は知事が決める。ボトムアップでキーワードをどんどん出して、作っていく中でトップの話を聞いて、という両方向の形でした。1月の知事の発案から始めて、その次の年の2月末の経営会議で決定するまで、1年2ヶ月と長かったですけど、ずっと一貫して、プロセスや手間をかける部分を大事にしてきました。







滋賀県職員の志(パーパス)に込めた思い


滋賀県ホームページ https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/purpose/ より

齊藤:さて出来上がったパーパスですが、三方よし、というワードが印象的です。パーパスの考えでもよく引用される「三方よし」ですが、ここに込めた思いを教えてください。

 

廣田さん :売り手と買い手だけでなく世間もよしとする「三方よし」は、元々近江商人の哲学でして、本県に由来があるその概念を大事にしてきたというのが一点。もう一点が、SDGsの考え方からしても、広く社会に、もしくは滋賀県から世界に向けて、三方よしの精神を目指そうという意味も込めています。

 

武田さん:県民の方にも、どんなところに共感しますかという調査を、候補を出して聞いたのですけど、三方よしという言葉に対して、思った以上に県民さんの共感が多くてですね、滋賀県は「三方よしばっかり言うてるやん」とか、「琵琶湖ばっかり言うてるやん」って意見もあるんですけど(笑)、やっぱり滋賀県にこだわるっていうことから言うと、県民の方の思いをしっかり反映すべきだという議論がありました。


※文章データを分析し、特徴的な単語の 重要度を文字の大小で表している


廣田さん :「滋賀県らしさ」とあわせて、もう一つ気をつけていたのが「造語は入れない」ということでした。言葉だけが踊ってしまうようなものではだめで、どれだけかっこいい言葉を使ったところで、パーパスはみんなが共有できなきゃ意味がないので、造語や新語じゃなくて、ごく当たり前の言葉で皆が腹に落ちるようなものを、というのは気をつけましたね。出来上がってみたら「そんなの当たり前やんか!」みたいなものでもいいと。私達県職員の仕事っていうのは、皆がごく当たり前に思っているところがスタートでゴールなのかな、と。


齊藤 :そうですね。パーパスは多くの人が使っていくものだからこそ、最終的に当たり前の文言になることもありますが、むしろそうであるべきであり、それをどう自分ごと化して落とし込んでいくかというところだと、私たちも多くのパーパス策定に関わらせていただく中で、日々実感しています。今後自治体でも、策定されるところが増えてくるのではと期待しているのですが、地方自治体がパーパスを策定となると、結局同じような文言になってしまうのではという懸念もされるのではないかと思うんです。滋賀県は、三方よしという言葉でらしさを表現されたわけですが、そのあたりはいかがでしょうか?

 

武田さん:たしかに似てくるというのはあるかもしれませんね。ただ個人的には、もし47都道府県でそれぞれパーパスを作ったとしても、「ほんまに一緒になるんかな」っていう気はしていて、やはり地域性が出てくるのではないかと思います。皆の根差すものが何なのか、どこにこだわるのかにもよると思うんです。滋賀県では、職員のやりがいに重点を置いたんで、そこに密接に繋がるようなパーパスになるし、逆に 外に向けたブランド戦略的な考え方で策定するっていうんであれば、他とは違うような言葉を入れるのかもしれない。今のところ(パーパスを策定したのが)うち(滋賀県)だけみたいなんで、想像でしかないですが・・・。


廣田さん :自治体職員の習性なんですが、最初に何か考えようとするときに、自分達もつい癖で、他の自治体を見るんです(笑)。パーパスについて調べ始めた時に、他の県で策定したところがなくて。なんで無いのかなって考えた時に、作りにくいのかなって。自治体の存在意義というものが当たり前すぎるという面と、エリアの中でとにかく多様な事業をやっているのが自治体なので一言では言い表しにくいのかなっていうのは感じましたね。



初心に立ち返るきっかけづくりとして


齊藤:そこを突破されて、見事策定された滋賀県さんから、今後続く自治体へのアドバイスがあればぜひ。

 

廣田さん:作る過程で得られたものがたくさんあったなっていうのは、皆さんにお伝えできればと思います。とにかく多くの人に関わってもらって作るという方針だと大変で時間もかかるんですけど、確実に得られるものがあり、その後の実践に向けても意味がある、というのが一点ですね。


武田さん:県庁には、技術職、行政職など色んな職種の職員がいて、人数も多くて普段顔を合わせない人たちがたくさんいます。強制ということはしたくはなかったんですけど、できるだけいろんな人にワークショップに来てもらうようお願いしました。ワークショップの冒頭では、「上司に言われたから来た」という人も多かったんです。そういうところから、自分の働きがいとか、なぜ県庁で働くのかなどを、顔を合わせたこともない職員同士でざっくばらんに話をして、1〜1時間半後にはちょっと表情が変わって、来てよかったと感想を言ってくれました。年も職種も業務も全然違うけど、ワークショップを通してそこにいる職員が、実はみんな思ってることは一緒だった、共有できたっていう瞬間が毎回あって、数字にはなかなか表しにくいんですが、表情が変わるのがわかる、そういうところに非常に価値があったなと思います。それを職場にも持って帰って、そういう気持ちでまた仕事をする、そんな小さな積み重ねで県庁が変わるといいなと思ってます。


齊藤:弊社のクライアントさんでも、パーパスを明確にしたことはもちろんだけど、そのプロセスが良かったっておっしゃる方がすごく多くて。今まで仕事のことについては結構話すけれど、会社そのものについては、実はなかなか話す機会があまりなくて、思わぬ副産物だったよねとよくおっしゃっていただいています。


廣田さん:パーパス(を策定をするかどうか)に関わらず、こういう求心力といいますか、日々目の前の仕事で忙しい中で、あえて立ち止まって自分の原点や初心は何だろうと考えて意見交換する場を作れたのは意義があったし、いろんな意見が聞けて本当にありがたかったなと思います。 


齊藤:パーパス発表の後、県庁の中、それから県民の方から、反応はいかがですか?

 

武田さん:4月で人事異動があったりするので名刺をたくさん刷るんですけど、県庁の中の名刺発注をするところに、パーパスの文言入りの名刺見本を置かせてもらいました。私もパーパスを入れたんですけど、けっこう多くの人が名刺にパーパスを入れてくれていますね。外部の人と名刺をやり取りすると、「(パーパスを)作らはったんですね!」みたいなやり取りがあったり、「三方よし!すごい良いですよね!」と共感してもらったりなんてことがありました。


廣田さん:パーパスを作ったからすぐに何かが変わるというものでもないのですが、今はまず、滋賀県職員みんなの共通の志として、どんどん表に出していこうよって。4月の年度初めに各所属の中でパーパスができたことを伝えてもらって、新規採用職員への研修テキストにも入れて議論してもらったり、職員採用試験の案内にも使われています。こうしてどんどん使っていくことかなと。


齊藤:常に思い出すものではなくても、何かの判断に困ったときの判断のよりどころになるものとして、名刺などのツールに取り込まれているのは良いですよね。今後の浸透がどのように進むのかも期待しています。


廣田さん:職員へ共感やご意見ももらいながら進めたので、策定のプロセスですでに浸透もさせながらやってきたように思いますが、これからの実践というところでは、パーパスをもう少しブレークダウンして、自分の属する所属単位ではどういう働きをしてるんだろうとか、さらには個人レベルまで落として「自分ごと化」するというところまで、今はそこまではしてないんですけど、今後の検討の案ではあるかなと。


武田さん:一過性のものでなく、10〜20年とかもっと長いスパンを見ながらやると思っているので、例えばCMを打ったりとかイベント的に扱うものではないと思うんです。役所ってすぐ広報で作りたがったりするんですけど(笑)そういうものじゃなくて、気負わず日々働く中で振り返るツールとして、じわじわと、できるところからやっていくものと考えています。


齊藤:「気負わず」って本当にいいことをおっしゃっていて、パーパスの浸透活動には終わりがないのでずっとやり続けなくてはいけないので、気負いすぎてやると続かないんですよね。 


廣田さん:スタートダッシュじゃなくて細く長く、みんなの心の奥に根づくようなパーパスにしていきたいと思っています。

 

齊藤:応援しています。本日はありがとうございました。




廣田 龍一氏

平成15年度滋賀県入庁。令和4年度から5年度まで

総務部行政経営推進課(現在は教育委員会事務局に在籍)。

“「何の仕事をするか」より「誰と一緒に働くか」

の方が重要かも、などと思いながら働いています。

県内でお勧めしたい景色は「賤ケ岳山頂または

安土城天主跡から眺める琵琶湖」で、

滋賀を舞台とした小説でお勧めするのは、

今村翔吾さんの「塞王の楯」と宮島未奈さんの

「成瀬は天下を取りにいく」です!”

武田 博氏

平成17年度滋賀県入庁。令和3年度より

総務部行政経営推進課(令和6年度現在も在籍)。

“休日は、生まれ育った滋賀の琵琶湖や山々の

自然を満喫するのが楽しみ(キャンプ、カヤック、

登山、自転車などなど)。こうした仕事以外のこと

(遊び)が、仕事につながるというのが信念。

きっと今回の滋賀県職員の志(パーパス)にも役立ったはず…!”


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