皆さん、こんにちは!
エスエムオーのサステナビリティコンサルタント、平原依文です。
「当日配達」「翌日配達」が当たり前になった今日この頃、もしもボタン一つで荷物が届く社会がなくなったらどうしますか?
近年、ニュースなどで取り上げられることが多かった「物流2024年問題」。
ついに今年の4月、ある新ルールによって「モノが運べなくなる」可能性が現実になるかもしれません。まさに日本の物流業界の節目とも言える2024年。この転換期を乗り越え、サステナブルな物流を実現するために、利用者である私たちはどんなことができるのか。「脱力」をキーワードに当事者として物流の未来を考えてみたいと思います。
トラックドライバーへの負荷が可視化した「2024年問題」
「物流2024年問題」とは、2024年4月にトラックドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に規制されることによって起こる諸問題のことです。1ヶ月あたりの労働日数を20日とすると、1日あたりの時間外労働時間が4時間に規制されることになります。しかし、令和3年の調査によると、全体の18.3%のトラックドライバーが4時間を超える時間外労働をしており、その労働時間分の輸送能力が失われることになります。また、物流業界は人手不足も深刻です。公益社団法人全日本日本トラック協会によると、全職業の有効求人倍率が1.13倍なのに対し、物流業界は2.11倍。就業者の年齢構成を見ても、29歳以下の割合が全産業では16.5%なのに対し貨物輸送では10.0%と、高齢化も深刻です。国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」は、このまま何も対策をしなかった場合、輸送能力は2024年に14.2%、2030年には34.1%も不足するとの予測を発表しています。
今回の規制は、トラックドライバーの「働き方改革」の一つです。あるべき労働の形に戻すことで崩壊してしまう現在の物流体制は、決してサステナブルであるとはいえません。
「安くて早い」よりも優先されるべきこと
利用者である私たちにはどんな影響があるのでしょうか。
輸送能力が低下するということは、物流業界の売り上げが少なくなってしまうということ。それを補うために、運送料金が値上げされることが考えられます。また、配送時間が長くなり、「翌日配送」などのサービスが利用できなくなるかもしれません。
しかし、その「不便さ」を、私たち利用者が受け入れることはできないでしょうか?
物流は私たちの生活を支えるインフラです。そして、年初にあった能登半島地震のような災害時には、すぐに被災地に物資を運べる輸送網が命を救います。サステナブルで強固な物流をつくるためには、「今まで通り」の配送を物流業界がどう実現するかよりも、「余裕のある」物流の実現に私たち利用者が協力していくことが求められるのではないでしょうか。
今こそ取り入れたい「脱力系」物流
私たち利用者が協力できる、余裕のある物流への取り組み事例があります。アメリカやイギリスのAmazonには、配達オプションに「急がなくていいよ便(No-Rush Delivery)」があり、利用者が選択すると受け取りに3~5営業日の幅を持たせての配送が可能になります。「急がなくていいよ便」を選択するとAmazonのクーポンが付与され、利用者に還元されるシステムです。
日本国内でも、楽天グループが、「楽天市場」で購入した商品の配達で、セール期間中に配達日を通常より遅らせた利用者に一定の楽天ポイントを付与する「急がない便(仮称)」を2024年中に導入することを検討しています。民間調査機関MMD研究所が2023年に5000人を対象に行った調査では、ネット通販で自宅への配達を利用したことのある4211人のうち、急がない人向けの選択肢を「利用したい」と答えた人は87.1%に上ったといい、今後このような「急がなくて大丈夫」という意思を利用者側が表明できるサービスは広がっていくと予想されます。
テクノロジーの発展で良くも悪くも注文するモノがすぐ届くのが当たり前になった現代社会ですが、「誰が届けてくれているのか」を改めて考え、物流業界に携わる人々が、「急がなければ」と肩肘張らず、肩の力を抜いて働くことのできる「脱力系」物流を、私たち利用者側から推進していくことが、物流の未来には必要なのではないでしょうか。
平原 依文(ひらはら・いぶん)
SMO 広報・PR / サステナビリティコンサルタント
HI合同会社 代表 / 青年版ダボス会議 One Young World 日本代表
小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。早稲田大学国際教養学部卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、デジタルマーケティングを担当。その後、多企業で広報とブランドコンサルティングを推進。2022年には自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs教育を軸に、国内外の企業や、個人に対して、一人ひとりが自分の軸を通じて輝ける、持続可能な社会のあり方やビジネス
モデルを追求する。Forbes JAPAN 2021年度「今年の顔 100人」に選出。