弊社CEO齊藤の著書「パーパス・ブランディング」を皮切り(?)に、パーパスに関するビジネス書籍も増えてきましたが、古くから伝わる名書には、志など、現代でいうパーパスに関わる逸話が多く隠されています。今回のSMOメンバーコラムでは、コンサルタントの宮内 春子が、お気に入りの図書を、パーパスの視点からご紹介します。
皆さんには、何度も読み返す本というのがおありでしょうか?
私がパッと思いつく、自分の人生で何回も読むであろう本は、北方謙三氏の「水滸伝」です。北宋末期、腐敗しきった政府を倒すため、「替天行道」の旗を掲げ、立ち上がった豪傑・好漢たちの革命歴史大ロマン小説です。好きすぎて彼らの本拠地である梁山泊の舞台と言われる中国の山東省済寧市にある街まで行ったほどです。
水泊梁山(水滸伝の舞台である梁山泊を再現してつくられたもの)
最近、水滸伝の存在を思い出していました。パーパスや理念、あるいはブランドの浸透について考える時、小難しいビジネス書よりも、水滸伝のほうが参考になるのではないかと、前々から思っていたのです。個人的には、純粋にロマンを噛み締めて読みたいので、あまりこういう読み方はしたくないのですが、パーパス、理念やブランドの浸透にお悩みの方の参考になればと思い、おすすめ図書としてご紹介させていただければと思います。
弊社でお手伝いをさせていただいているクライアントには、パーパスを判断基準に、ということをよくお伝えしていますが、物語の中でピンポイントでそのセリフが出てきます。
例えば、軍人である朱仝(しゅどう)が軍事関連業務以外の任務を与えられた時の晁蓋(ちょうがい)との会話。
「難しいものを、ひとつ預けることになるぞ、朱仝」
「軍人には向かないことです。その任に適した人間を、送っていただけるのでしょうか?」
「文治省から、人は来る。しかし、最後に決めるのは、いつもおまえということになる。」
「それならば、できます。梁山泊の志に照らして、すべてを決めればいいのですから。」
(出典:「水滸伝:天地の章(11巻)」より)
朱仝はその役割をきちんと全うします。20代に始めて読んだ時は、「そんなことにも志って使えるの?」って思ったものです。朱仝みたいに普通にそれをできる人もいれば、志を理解する気もないという人も出てきます。外からの印象も、最初はよくいる山賊くらいに思われているところから始まり、だんだんそうではない一目置かれる存在に変わっていきます。
こんな風に、浸透フェーズでいう理解→共感→行動を、組織の内側と外側共に、多様な人物や出来事を通じて理解することができます。どうやったら志を体現した組織を形成、維持できるのか。梁山泊はなぜあれだけ求心力があったのか。その志を成し遂げるために、出自や考え方、職種、そして生き様が異なる強烈な個性を持つ登場人物たちが、各々の役割を全うすることができたのか。この小説に沢山のヒントが描かれています。
ややマニアックですが、さらに「替天行道-北方水滸伝読本(集英社、2008年)」という水滸伝にまつわる北方氏の手記や対談、登場人物の設定資料集、編集者が連載中に著者へ書いた手紙などをまとめた本があり、これも全巻読み終わったら読んでほしい1冊です。
その「登場人物の設定資料集」の中で、北方氏は登場人物の数名に関して、その人の梁山泊の志に対する姿勢を説明してくれていたりします。もちろん物語の中でも志をどう捉え、どう自分ごと化するのかという会話も出てきたりするのですが、やはり人物設定の段階からそこまで考え抜かれているからこそできるというのが分かります。
一部を紹介すると、以下の通り。
李俊:「梁山泊の志をしっかり理解しているが、強い組織性への違和感は、常に消えずにある。(中略)理解はしているが、思想がすべてではないという醒めた視線を持っている。」(p.165)
呂方:「梁山泊の志は、たまたま自分がやろうとしていることと一致しているにすぎない。」(p.182)
宋万:「大柄で、こけおどしのところがあったが、梁山泊の志をよく理解してからは、生来の純粋さが出てくることになる。」(p.198)
登場人物が必ずしも完璧なすごい人ばかりではないのも魅力の一つです。共感できる、感情移入する登場人物はきっと読むたびに変わっていくんだろうなと思います。
さらに小ネタですが、浸透ツールに関しては、時代が時代なので、キーとなるツールは「冊子」と「替天行道の旗」。あとは、基本「話すこと」や「エピソードの共有や伝達」、そしてやはり近くにいるまわりの人物たちの生き様そのものです。
どうでしょうか。ちょっと読みたくなった人いらっしゃるのでは?ちなみに、北方水滸伝は文庫本19冊もあるので、長旅になりますが、そろそろ3回目の旅に出ようかという思う今日このごろです。理念浸透の参考になるとは書きましたが、まだ読んだことない方には、まずは普通に登場人物達に感情移入して、どっぷり水滸伝ワールドにハマっていただくことをおすすめします。
(SMO 宮内 春子)
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