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  • 執筆者の写真smo inc

ルームシェアの一室から始まったフラットなコミュニティから、文化と経済の交差領域を拡げる探求と実践へ:301プロデューサー大谷氏

更新日:1月30日

バー・レストラン、ストア、シェアオフィス、ホテルレジデンス等の小規模複合施設である大橋会館を今年8月にオープンした、クリエイティブカンパニー301。意義のあるモノ・コト・場をプロデュースしつづける、301代表の大谷 省悟氏に、手掛けている複合施設の1つである代々木上原のCabo内のカフェ&バー”No”にてお話を聞きました。


(インタビュアー:SMO 齊藤 三希子)

 

齊藤:夏に池尻大橋にオープンされた大橋会館が話題となっていて、手掛けられている301、そしてプロデューサーの大谷さんが「なぜ?」の意義づけを非常に重視しているという噂を聞き、ぜひお話をお聞きしたいと思いました。

さっそくですが、現在のプロデュースのお仕事に就くようになるまでをお聞かせください。


大谷さん:いまに繋がる話で、一番古い記憶としてはですね、小学校で、クラス新聞プロジェクトを立ち上げたんです。大谷家を編集部みたいにして、音楽好きは音楽についてのチーム、など集まって編集会議をして、新聞として発行して。場所があって、人が集うしくみがあって、新しい人が必要になって仲間を連れてきたりしながら、その過程で関係はより密接になり、企画やクリエイションを通して作ったモノ・コトを世の中に出していくという、その循環を今もやっているという感じです。

 

齊藤:小学校のときに、すでに今されていることのオリジンがあったんですね。大谷少年は、編集長的な感じだったのでしょうか?


大谷さん:編集長というか、専門スキルを持っていないプロデューサー的な役割でした。今もそうですけど、仲間を集めて、うまく編成して、ビジョンを掲げて、そこに向かっていくことを面白がる、当時そこまでは考えてやっていませんけど、そういう状況を作り出す役割でしたね。


齊藤:そこから大きくなられて、社会人としてはどんなスタートだったのでしょうか。


大谷さん:CMの制作プロダクションで、映像制作、ものづくりに近いところにいたのが最初のキャリアだったんですが、それと同時に、友人とルームシェアの生活を始めたんです。就職時に、広告業界に入ると忙しくなるのはわかっていたので、自分の世界が狭いところに閉じこめられてしまう恐怖があって。会社以外のコミュニティーと強制的に接するのを維持するために、社会人になるタイミングでルームシェアして、業種の違う環境の人を集めたんです。


齊藤:世界が定まってしまうことへの恐怖や危機感って、普通の人は持てないと思うんですが、それには何かきっかけがあったのでしょうか?


大谷さん:保守的な家庭に育ったんですが、自分だけ異端で、家庭という”保守の象徴”から、いかに外に動いていけるかというのが価値観の根源としてありました。いわゆる日本の幸せの形というステレオタイプにはまる恐怖、没個性化や、自分自身のアイデンティティが薄らえてしまうことへの恐怖、なにか面白いことやりたいと思っているのに自分自身に専門性を見出せず、社会に埋没してしまう恐怖が、うっすらと小学生くらいにすでにあったんです。


齊藤:小学生にして、凄い感覚です…!ルームシェアは、どんな形態だったのでしょうか?


大谷さん:ルームシェアというワードが世の中に認知される少し前でしたが、映像制作会社でプロジェクトマネージャーとしてのスキルを積んでいた頃で、広いリビングに、20人くらい鍵を持っていて(笑)。

二十代半ばから後半くらいの、社会人経験はついてきたけど、会社で任される仕事のレベルはまだ高くないという世代が出入りしていました。ここから、自分達のやりたいこと、やりたいと思っている人たちを結びつけて企画化して・・・。エネルギーの乗っかったものを、社会に出していく場所となりました。301号室という部屋だったので、これが今の会社の前身となるコミュニティーに繋がっています。


齊藤:なるほど。大谷さんは、お仕事としてCM制作に関わっていらした経験・知見を活かしながら?


大谷さん:コミュニティーとしてやっていたことは、広告業界でのことと、全く逆のことなんです。広告っていうのはガチガチのヒエラルキー構造の中で、三角のピラミッドの上にメーカーがいて、代理店がいて、プロダクションがいて、クリエイターがいて、その中で仕事が下に落ちてくる。ビジネスモデルとしては強固な仕組みですが、なんのためにそれをやってるのか?を見てるのは最初の上の人だけになってしまっていて・・。この仕組みが上手くデザインされてるが故に、上を見てればそれなりに良い仕事が進んでいくが、下の人は「なぜ?」に対して盲目的になってしまっている ーそれが広告業界だなと思ったんです。


齊藤:私も広告代理店にいたので、すごくわかります!


大谷さん:それを逆にして、コミュニティーでは「なぜ、なにをやりたいのか?」「、それを社会に出していくためにどうすればいいだろうか?」っていう逆転の発想で。進めてみたら、共感値が高く、百何十人の規模のイベントを月に1−2回企画して、メディア取材や企業コラボとかもあって。お金にはなってないけどスキルや価値観の投下先として未来がありそうだと。クリエイティビティとかデザインの力っていうのは、よりこういう世界に繋がってくるんではないかなって直感があって、いきなり会社をやめたんです。


齊藤:すごい先見の明ですが、不安はなかったんでしょうか?


大谷さん:その時あてもなくやめる意思決定ができたのは、あとから思うと、コミュニティーが、僕の心理的セーフティーネットになっていたからかなと。会社だけだと、明日から会社の繋がりがなくなったら?と思うと怖い一方で、緩やかな信頼関係があり、かつ一緒になにかをつくったこともあり、それがけっこう豊かになったんで、最悪ダメになっても助けてくれるだろう、みたいに思えるようになったのが大きかったんじゃないかなと思います。

場所をもつには固定費もかかるけど、いまなお、場所があり、そこに人の関係があり、仕事とか関係なくても人が出入りしてる状況を作るっていうことにこだわっているのは、人が自分がやりたいと思うことにチャレンジできる状態をつくりやすくしたいという想いからですね。


齊藤:大谷さんの「なぜやるか?」は、人がチャレンジしやすい環境をつくる、だということでしょうか。


大谷さん:スタートした時はそんな風には意識していなかったんですが、人が本当にやりたいことにチャレンジできる構造をつくるっていう思いがまずあって起業したのは確かですね。

ガチガチのヒエラルキーのピラミッドをばちん!とつぶして、フラットにしたテーブルを真ん中に皆で囲んで、想いとかビジョンとかミッションとかを並べる。コミュニティ301というマンションの一室の中でそんなふうに起きていたことを、社会というスケールで、会社としてトライしたかったんです。


齊藤:個人の生活と仕事を繋げる、というのは、大谷さん個人としてではなく、皆に向けてということですね?


大谷さん:はい、すべての人に向けて、です。自分は仕事と生活は切り分けたい、という人もいて、それは否定しないんですけど、価値観が変遷する中で、多くの人が自分のやりたい仕事をなるべくやる、そういう時代に変わってくるだろうと。今は切り分けたいと言っている人も、皆がそうしてる時代なら、やりたいことを仕事にしたいと言うだろうな、というのを前提としています。


齊藤:私たちSMOでも、会社のパーパスはあれど、個人のパーパスとそれが重なると、よりハッピーだよね!ということで、それらの重ね合わせのお手伝いなどもしているのですが、そういうことですよね?


大谷さん:そうです。個人レベルでは、個人の生活と仕事を繋げ、一体なものにしていくことですね。

プロジェクトレベルでは、建物とかを作ったりということを今していて、それを大きく社会レベルまであげていくと、文化と経済の巡り合わせ、この2つを融合させ、文化と経済の交差領域を拡げていくことをやろうとしてるという説明をしているんです。


ビジネスとして、あるプロジェクトが始まる場合、経済的に利益が出そうだから、ってところから事業計画が組まれて、そこに文化をまとわせようとさせられていて。特にデベロッパーとか、ステークホルダーが大きくなるほどそういうふうになりがちなんですが、その順序でなく、文化の側から経済、という順序にしないといけないと言っているんです。


齊藤:手掛けられているプロジェクト、例えば大橋会館なども、そうやって文化側から経済、という順序があり、それぞれ意義を持っているということですね?

 

大谷さん:そうです。文化の側から経済を作り出すことができる、それを証明するために、良い事例が作ろうと、ここ数年で建物を連続的に手がけてきているんです。それが、ここ(No.のあるCABO)や大橋会館などですが、関わり方が全部違っていて、CABOは自分達の建物に自分達のカフェが入っているけど、大橋会館は自分達の拠点は持たない。それでもそれぞれがちゃんと上手くいくということを、別々なやりかたで証明しようとしているところです。



齊藤:文化と経済が融合すると、どんないいことが起きるのでしょうか。


大橋会館(301提供)

大谷さん:大橋会館をオープンして以来、この問いを聞かれて考える場面が多いんですが、ビジネス的に答えることがなかなか難しいんですよね、イケてるものがなぜいいのか?みたいなことに答えられないような。

ただ、なんとなく思っているのは、価値に”強度”があるってことなのかなと。

ここ(No.)は移転前に隣のビルで最初にオープンしたのですが、半年でコロナ禍となって、他のお店はつぶれてしまったところもある中で、うちは、つながりで応援してくれる人たちに経済的にも支えられたのがあって。


経済の側から文化をまとわせると、こういうときに足元がもろくて、すぐに崩れ去ってしまう。文化側からという場合は、経済的価値よりも、良いと思ってそこにお金を払っている。コミットしている人たちがコミュニティを持っているという、その方が持続性がある価値を生み出せると思うんです。 


齊藤:デベロッパーは、まず坪単位いくら?みたいな話で、その枠の中でなにかやってくださいってなるけど、そうでなくて本来の順序は、文化があり、支持者がいて、共感してもらえる人がいて、そこに経済的価値も見出せると。


大谷さん:はい、それを、実際どうやって実践するのか?ってときに、掲げているメソッドが、この「人と計画の車輪」です。ものをつくりだす時も、場をつくりだす時も、同じメソッドでやっているんです。

この「人と計画の車輪」は、新規事業のブランティングで、より効果を発揮する考え方です。通常ビジネスの中では、新しい事業をつくるとなると経済にフォーカスされて、市場にちゃんと顧客がいるかってことを詰めて、そこにクリエイティブを考えるという方法ですが、本来は、立ち上がってくるエネルギー、これに人間に依存しているはずなんです。特に新規事業においては、この人がこんな一生懸命に、このプランをもって、このエネルギーがあって、って立ち上がっていって、絶対そこにインパクトあるということがわかってるはずなのに、なぜかビジネスの世界では、ここはなかったことにされてるんですよ。


齊藤:されてます!良い視点です!


大谷さん:それを、そんなことないよね!って正面から向き合った考えなんです。立ち上げた人を起点にしながら、なぜそれをやるのか?というのを強い軸足でやってないと、だんだんあっちゃこっちゃいってしまってブレてしまって、結局できたときには いろんな人にいろんなこと言われてできたモノ、なにも思い入れが無いものになってしまう。なので、立ち上げ後に、軸足をまずしっかりしましょう!と、なぜやるのか?ってところのコーチングにすごい時間をかけてやるんです。



齊藤:すごくわかります。私自身が、パーパスを軸にしたコンサルをするようになったのも、組織のブランディングに関わっていると、お手伝いしているときはなんとなく良くなったのに、手が離れてしまうと、いろいろブレ始めてしまって・・・それはその組織の「なぜやるか」、つまり「パーパス」のある無しに左右されるからだという結論に至り、そこからパーパス・ブランディングを唱えるようになりました。



大谷さん:立ち上げる人が自分自身の言葉で、自分がこの事業やブランドを立ち上げるのはなぜ?このためである!ということを誰に対しても絶対言えるような強度にしてから、先に進ませるというのをやっていますね。

すると、人の熱量や思いというのが発露され、関わる人たちも周辺に拡張してくれる。プロモーションしなくても、周辺の熱量が伝播していく状況が作られるので、嘘がない、ちゃんとファンを広げていくことができるんです。広告でプロモーションしていくよりは関係者の熱量で広げていく方が嘘がないですよね。


齊藤:嘘がない。そこから、長く続くものとか、ほんとうにいいもの、普遍的、というキーワードに繋がってくるのかなと思います。


大谷さん:長く続くかどうかはこれから歴史が決めていくことになりますが、なるべく続くようにしたいなと。そして、これをやっていくと、さっきの文化から経済の順番になっていくと思うんです。文化は価値を生むために生まれるのではなく、ほんとに良いと思っているモノ・コトが、歴史の中で生き残っていって、文化になるわけですね。人間の熱量、やりたいとか好きといった、感覚的な部分から始まるやり方で作っていく事例が増えていけば 文化側から経済にアプローチするモノ・コトが社会に増えていくのでは?ということなんです。 


齊藤:ありがとうございます。さきほど、なぜ?を起点にコーチングされてからプロジェクトをスタートするとお話されましたが、一旦始まったあとのなぜ?の伝播はどのようにされていらっしゃるのでしょうか。


大谷さん:プロジェクト立ち上げを担って、そのあとは離れることもあるので、まずはファウンダーに考え方をインプットして、チーム編成をするときに、多少の技術は必要だけど、必ずしも経験や知名度がある人よりもやってることを心から応援してくれる人を選んだ方が良いよというアドバイスはしていますね。そうすると手放した後でも、応援者たちが周辺に広げていってくれるんで、波紋が途中で止まらずに、ちゃんと広がっていきやすい状況を作れる。


事業としてスケールが大きい場合はまた別で、ある人がいいと言っていても全体をどう巻き込むか?ってなったときに、まずは社内をどう突破していくか?という政治的戦略にかなり介入するんです。ゲームにたとえて、オセロの角の話をよくするんですが、社内のある上の人、つまりオセロの角のような人が誰なのかを抑えて、その人をよく見ていかないと、その人がひっくり返すことがよくある。なのでその人を協力者にするにはどうしたら良いか?を一緒に考えて、それに時間を使っていますね。


齊藤:ひっくり返すこと、ありますね・・・!(苦笑)


大谷さん:まずそれはどういうゲームなのか?を規定して、オセロの角を確認し介入し、

キーマンと話す機会を作ってもらって・・、というのが社内突破の段階ですね。

そのあと、パートナーやステークホルダーが増えて多くなってくると、増えてきたプロジェクトチームをどうマネージしていくのか?という問題が出てくるんです。それぞれがコンセプトやビジョン的なものを言語化して、それを皆ちゃんとやってる、っていっても、それでは浸透しないわけで。


齊藤:言語化して終わりなパターンですね。私たちもパーパス策定の際に「パーパスは策定して終わりでなく、始まりです。そこから永遠に続くサイクルを回します。覚悟はありますか?」と念を押しています(笑)。


大谷さん:ステークホルダーが増えると、みんな合理的にやろうと、楽をしようとするんです。なので、とにかく最初に手間ひまかけて話し合いをして、途中から入ってもらう人にもきちんと話して、ちゃんと納得してもらったうえで入ってもらう。シンプルな話ですが、みなそれをサボるので、プロジェクト動いてからバラバラになり始めたのを、なんとか引き戻そうとしたりして大変な思いをしたり、やる気にさせるために何とかして全社をかけたキャンペーンをやる、とか商業施設あるあるじゃないですか。


齊藤:あるあるですね(笑)。


大谷さん:それを、手間ひまかけてやれば、立ち上がりから皆がこういうことやっていきたいよね!ってアイデアが出てくるし、こっちはそれをフォローすれば良いという感じになります。

クラフト的な何かを地固めする時に、みんな「モノ」はクラフトするんですけど、関係性をクラフトしてないんですよ。



齊藤:”関係性のクラフト”。いい言葉ですね!

人との繋がり、対話、そして合理性とかでなく、手間ひまかけるっていうのもまた、人間っぽく、文化側から経済を作るところに通じるのかなと感じました。


最後に、SMOは「本物を未来に伝えていく。」がパーパスなのですが、本当にいいよね、って思えるモノやブランドが「本物」であり、そういういいものを次世代に伝えていけるようにサポートする仕事だと思っているんです。そういう意味での、大谷さんにとっての未来に残したい「本物」はズバリ、どんなことでしょうか?


大谷さん:プロデューサー的な立場としては、課題を見つけるとなんとかしたいというのがあります。例えば建物の作られ方なんですが、一般的には前例踏襲主義で、何がか建物が一個できると、しょうもないものであっても、そのやり方で連鎖する…という事実があって。去年から連続的に手掛けている建物で、文化的にも経済的にもいいよねっていう良い事例を作ってネガティブな連鎖を止めたら、少しでもポジティブに変えていけるんじゃないかなと思っているんです。


本屋なんかも、ビジネスとしては収支構造がかなり難しくて、超大型書店でやるか、利益率の高い飲食と掛け合わせないと成り立たないわけですが、人と本の関係っていうのは普遍的な価値があるので、本でなにかできないか?とか。

(No.の夜業態として取り組んでいる)カクテルバーなんかもそうで、海外だとカクテルバーはクリエイティブのカルチャーシーンに入ってるけど、日本だと、銀座をはじめとして、ちょっと古いよくわからない文化として捉えられていて、ちょこちょこ出てきている若手もまだまだ認知されていないので、ほんとうに良いと思えるカクテルバーを、自社の飲食の中に組み込むことをしていて。

悲劇の状況から、自分たちが良い事例を作り出すことで、ポジティブな形で社会に出して、未来に伝えていければいいなと思います。


齊藤:数々の取り組み、ワクワクしますね。応援しています。本日はありがとうございました。



 


大谷 省悟(おおたに・しょうご)

301 Inc. CEO / プロデューサー


文化と経済の交差点にフォーカスし、モノ・コト・場をゼロから立ち上げるプロジェクトを多数手掛けるクリエイティブチーム301代表。

自社事業として飲食店とクリエイティブオフィスが融合したスペース『No.』を運営し、人やコミュニティに対するリアルな知見を深めながら外のプロジェクトへ還元している。

近年は、池尻『大橋会館』や代々木上原『CABO』など、街や施設開発に関わるプロジェクトを連続的に手掛けている。

 



 

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