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老舗ラグジュアリーブランドが考えるパーパス起点のメゾン経営とは?

パーパス・ブランディングを考える上で、ラグジュアリーブランドの確固たるブレない姿勢は参考にすべきヒントがたくさんあります。カルティエ ジャパン プレジデント&CEO の宮地氏に、カルティエのパーパスと、それにまつわる強さの秘訣を探りました。

(インタビュー:SMO 齊藤 三希子)

 

齊藤:「カルティエ」という強いブランド、それを支えるブレない軸をお持ちで、その強さは何なのかをお聞きしたくて、今日は色々な角度からお話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願いします。まず、宮地さんのキャリアについてお聞きしたいです。

宮地さん:元々伝統的なモノ作りに憧れていて、メーカーに入りたいと思ってました。実際に複数のメーカーでインターンシップをさせていただいた中でこう言われました。「モノを作るためにはお金が必要で、お金の巡りというビジネスを数字で理解できないと、モノ作りはできない」と。私は文系で、数字は苦手だったのですが、先に済ませようと思ってまずは金融業界でキャリアをスタートしました。

齊藤:なるほど。

宮地:金融業界で三年半経験したのち、フランスの大学院に進学しました。そこで初めてラグジュアリーブランドのビジネスについて知り、モノを作るだけはなく、そのモノの中にある、エモーショナルな部分であったり、モノの付加価値を世に送り出すことに興味を持ちました。


齊藤:インターンでのメーカーから金融を経て、ラグジュアリービジネスに至るまで、それぞれを経験して、いかがですか?

宮地さん:「カルティエ」というメゾン(企業)を理解するのに、私自身も非常に時間がかかりました。ラグジュアリービジネスは、ただの機能的価値ではなく、様々な意味で付加価値を大事にし、それを醸成するのが身についている、凄く特殊な業界だと思っています。製品のクオリティだけではブランドにはなりません。目に見えない感性、文化・哲学・価値・歴史を抱えているのがラグジュアリーブランドだと思います。メゾンをどう解釈し、未来につなげていくかは哲学的で、理解するのに時間はかかるのですが、哲学とアートが好きな人間としてはそれが面白いところでもあります。



カルティエのパーパス


齊藤:さて、「カルティエ」のフィロソフィーの根底には、企業理念やパーパスがしっかり根付いているとお見受けします。「カルティエ」のパーパスについて教えてください。

宮地さん:短く言えば「普遍的な美の探求を通して人の心を豊かにする」です。

齊藤:すごく豊かにしてもらっています!店頭だけでなく、色々なイベントもやってくださっていて、カルティエの顧客だけでなく広い目で「豊かにする」ということをされているという印象です。


宮地さん:顧客に対してはもちろんですが、人・社会・コミュニティを意識しているブランドだと思います。タイムレスなピースを作っていると自負していますので、好奇心、審美眼、独自性ーを大事にしています。特に、「カルティエ」らしさを大事にしていますね。



カルティエ社員に配られた赤いボックス


宮地さん:今日は特別な箱を持ってきました。これは、カルティエ インターナショナル プレジデント&CEOであるシリル・ヴィニュロンが社員ひとり一人に配ったボックスです。箱の一番上に「The Purpose」と書かれているように、「我々が誰のために・何のために・どういう価値観を持って歩んでいくのか」が書かれています。


齊藤:これは入社すると貰えるんですか?

宮地さん:入社時の研修では必ず内容をカバーしています。








齊藤:グローバルとジャパン社との連携はいかがですか?本社のものを日本でもそのまま取り入れるのか、日本なりに解釈したものを皆さんに伝えている感じなんでしょうか。

宮地さん:基本的には本社の方針に沿っていますが、グローバルでの会議を基に咀嚼したものを要所要所で伝えているところはあります。私が着任した2020年8月はコロナ禍で、生活必需品が不足するなど、本当に必要なものはなんだろうと考えた時期でした。そんな中で、我々の存在意義、つまりパーパスに立ち返り、考えることが必要だと実感しましたし、それらを社員に伝えることも大事だと感じました。

初めての全社員に向けたスピーチにおいて、「私たちは日々の生活において必要なものを作ってるわけではないが、普遍的な美しさを探求してきた。その中から人の心や社会をどう豊かにするか。美しいものを愛でるというのは人間だけであり、素晴らしい文化をより豊かにする貢献をしているのではないか」と、私たちのパーパスについて話をしました。



パーパス浸透のための企業文化


齊藤:素晴らしいですね、他にパーパスやカルチャー浸透に向けてされてる取り組みなどはありますか?

宮地さん:毎月全社員向けのミーティングをはじめ、色々な社内コミュニティ活動をしています。昨年秋には、社内向けのアート展示イベントを開催しました。そのほか、美術館に行ったり、トークセッションを実施したりと不定期ですが活動しています。

齊藤:歴史があり企業文化も明確なので、入社される方もそこのギャップは少ないのでしょうか?

宮地さん:170年以上続くブランドですので、カルチャー、バリューを本当に理解するには時間がかかります。多くの人との対話も必要ですし、マニュアルがあるわけではありません。それがメゾンらしいところでもあります。

齊藤:さきほどから会社のことを「メゾン」と仰っているのが印象的です。


宮地さん:メゾンという言葉の裏には、そのメゾン(家)で守られている価値観や、ファミリーの一員として従事するという責任、コミットメントが自然と備わっているのかもしれないですね。

齊藤:皆さんの価値観も似てくるのでしょうか。

宮地さん:歴史あるメゾン「カルティエ」は、常に前進しています。伝統と革新を大切に、どこを守りどこを進化させるか皆が理解すること、それはとても大事なことです。

齊藤:相当難易度が高いですが、そこが力だと思います。マニュアルがないけど、空気みたいなものを継承しながら前進していくのが、ブランドビジネスの醍醐味ですね。








数字のために蓋をされるようなパーパスは見直しを



齊藤:さて、パーパスやカルチャーが重要でありつつも、目先の数字も経営者として重要視しなくてはならない中で、苦しくなると目先の数字欲しさにパーパスに蓋をしてしまうことが無きにしも非ずで、そこはどう乗り越えていったらいいのか、アドバイスなどあったら教えていただきたいです。


宮地さん:(かなり疑問の様子で)本来はパーパスがビジネス活動にリンクしているので、数字を作るためにパーパスが蓋をされることはないはずではないでしょうか。「何のためにやっているか」と、目の前の業務は繋がっていなければならないと思います。


齊藤:そうなんです。でも経営者にとってはここが課題になることが多く、「真価が問われるところです」っていうのは常々お伝えしているんですけれども、そこはもう、存在理由そのものを本当に信じているのかという問いかけからするということですよね。

宮地さん:経済状況が悪化したら、確かに投資はできなくなるかもしれません。しかしながら、パーパスが失われるわけではないと思います。長い歴史の上に信頼ができているので、そこに対するコミットメントを一度裏切ると、致命的ですよね。そういう意味でパーパスを裏切ることはないんじゃないかなと。

齊藤:さすがです。カルティエは理念があって、コンセプトがあってストラテジーが...という流れがしっかりあるんだなというのが、よくわかりました。


宮地さん:製品のクオリティはもちろん、見えない部分も信頼の上にできています。それを守るのが人であり企業文化だと思います。今のメゾンを担う社員には、「カルティエ」のアンバサダーであると心得、責任をもち次世代に渡さないといけないと伝えています。




普遍性から始まる美しさ



齊藤:長い歴史で培われた社会からの信頼、社内でもパーパスに対する信頼、組織への信頼...あらゆる信頼が構築されているというのが、よく分かりました。

さて、色々なブランドがある中で「カルティエ」ならではの特徴というのはいかがでしょうか。


宮地さん:普遍的なものにこだわっています。時代に流されるのではなく、時代を超越する美しさ。「トリニティ」は、1924年、つまり大正時代から100年近く続いている「カルティエ」のアイコンで、このようなアイテムが「カルティエ」には数多くあります。それはデザインだけではなく、会社としてどうあるべきか・・・それは、我々のコーポレートシチズンシップ活動にも繋がっています。世に送り出すものの考え方は、スパンだったりさまざまな意味で、ファッション業界とは少し違うかもしれません。


ハイジュエリーイベントが開催される際、「カルティエ」のクラフツマンシップが凝縮した展示で、新作だけでなく、1910年以降の過去の作品をを買戻し、修復した「カルティエ トラディション」と呼ばれるコレクションが並ぶこともあります。初めて展示を見た時、圧倒的なスケールとともに、“王の宝石商、宝石商の王”と称された「カルティエ」の迫力を感じました。 


齊藤:美学・哲学ですよね。私が持っている「カルティエ」は、祖母から買ってもらったとか母に譲ってもらったとか。時代が変わっても子供に受け継ぎたいな思えるものは、まさに「カルティエ」ならではだなと。色々なサステナブル活動にも取り組まれていますが、製品自体がサステナブルの象徴といえますね。

宮地さん:ありがとうございます。普遍的な美しさを伝えられるようなクリエイションを作ることは我々のミッションでもあると思いますし、それは言動などの人のあり方にも影響を及ぼしていると思います。

齊藤:製品ももちろんですが、根底にある哲学が本当に素晴らしいです。では、最後に、宮地さんの考えるラグジュアリーブランドとは?

宮地さん:必要不可欠ではないかもしれませんが、人に「心の豊かさ」やインスピレーション、夢を与えてくれるものだと思います。

 

齊藤:まさに、「カルティエ」のそのものですね。本日は、大変貴重なお話を、ありがとうございました。




 

宮地 純(みやち じゅん)

カルティエ ジャパン プレジデント&CEO


京都大学法学部卒業後、外資系証券会社に入社。INSEADにてMBAを取得後、ラグジュアリー業界でのキャリアをスタート。 2017年リシュモン ジャパンに入社し、カルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション本部長に就任。2020年8月より現職。











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