皆さん、こんにちは!
SMO広報兼サステナビリティ担当の平原です。
組織のサステナビリティ推進に関わっていると、どんなに本心でいいことをしたいと企業が行動していたとしても、伝わらない時があります。
パーパスの策定から浸透までの支援に関しても、どんなにいいパーパスがあったとしても、「発信」することのゴールが描きにくかったり、さらにその先へ「伝わる」ことが難しいこともあります。
今回のコラムでは、発信したメッセージが社会に受け入れられ、広く支持されたという一つの指標である広告賞の受賞作品から、共感と信頼を獲得する「一枚絵」の描き方を紐解きます。
コロナビール「Corona Plastic Fishing Tournament」
米国・ニューヨークで開催される世界最高峰の広告コンクール、クリオ賞。2023年度、最高賞であるGrandを獲得したのが、AB InBev/コロナビールの「Corona Plastic Fishing Tournament」です。取り組み内容は、海洋環境の保護のためにメキシコで世界初の「プラスチック釣り大会」を開催したというもの。参加した漁師たちはプラスチック廃棄物の獲得量を競い、リサイクル業者に売却する仕組みです。海洋環境を改善するだけでなく、漁師の収入源にもなっている点が評価されています。
コロナビールは、環境保護活動のための「PROTECT PARADISE」というブランドパーパスを掲げています。ブランドキャンペーンの謳い文句に「Find Your Beach」が用いられるなど、創業当初からビーチで楽しむお酒として愛されてきたコロナビール。その海を守るために、プラスチックによる海洋汚染をなくすための活動を精力的に行っています。この広告
に、ビールに関する言及は一切なく、海に浮かぶプラスチックを釣り上げる船と漁師たちの写真が印象的です。一目で海洋汚染への取り組みだと認識することができ、取り組み内容も簡潔でわかりやすく記載されています。「なぜこれをコロナが?」とサイトを見に行きたくなる広告ではないでしょうか。
マスターカード「Where to Settle」
クリオ賞と同じく世界3大広告賞の一つであるカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル。2023年度、マスターカードと広告会社McCann Polandによる「Where to Settle」が、「SDGs」でグランプリ、「ダイレクト」「PR」でゴールドなどを受賞しました。取り組み内容は、戦争により避難を余儀なくされ、ポーランドでの新しい生活と仕事を求めるウクライナ市民に情報提供するプラットフォームの構築。戦争勃発直後、多くのウクライナ市民がポーランドの主要都市に避難したことにより、一部地域が過密状態となってしまい、家賃の高騰や雇用競争の激化を引き起こしました。そこでつくられたのが「Where to Settle」。サイトから簡単なフォームに回答するだけで、匿名化されたマスターカードの自社データと、ポーランド中央統計局のデータに基づいてポーランド全国の平均的な生活費、給与、住居、経済的な機会、そしてデータを入力した人と家族に最適な避難場所を知ることができる仕組みです。マスターカードによると、ウクライナ難民の約20%がこのプラットフォームを利用し、ポーランドのGDPも2~3%増加する可能性があるといいます。
受賞したこちらの作品を見てみると、まず目に入ってくるのは避難場所を求めて列をなすウクライナの難民たち。どんな課題に取り組み、それがどれだけ切迫した課題であるかがすぐに伝わってきます。また、中央に配置されたスマートフォンの画面によって、デジタル技術やデータを用いた解決策であることもすぐにわかります。マスターカードのパーパスは、「Connecting Everyone to Priceless Possibilities(すべての人をプライスレスな可能性に繋げる)」というもの。事業で培ったデータや活用のノウハウを、すべての人の利益に繋げる姿勢が伝わってくる広告です。
マイクロソフト「ADLaM―文化を守るためのアルファベット」
同じく2023年度のカンヌライオンズで、「デザイン」と「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」の2部門でグランプリを受賞したのは、米マイクロソフトの「Microsoft 365 for the ADLaM (An Alphabet to Preserve a Culture ―文化を守るためのアルファベット)」。取り組み内容は、西アフリカに住む世界最大の遊牧民集団フラニ族の母語であるプラール語を、デジタルで活用できる仕組みを作るというもの。プラール語には元々話し言葉しかなく、消滅の危機に瀕していました。そこで、フラニ族の兄弟がプラール語を守ろうと立ち上がり、プラール語の手書きアルファベットADLaMを作成。しかし、現代のデジタルコミュニケーションで使っていくためにはPCやスマといったデバイスに対応する必要があります。今回、マイクロソフトがアルファベットの改訂などにより全世界で使用できるようにし、文化保護を加速させたことが評価されました。
この作品は、ADLaMの文字がフラニ族の伝統文化からインスピレーションを得たデザインで描かれているのが印象的です。広告を見たほとんどの人は文字を読めないことが逆に興味をそそり、下部の取り組みの説明まで読んでもらう誘導ができているように感じます。マイクロソフトのパーパスは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」。「すべて」という言葉に込められた決意を体現する取り組みであり、広告だと言えるのではないでしょうか。
共感と信頼を獲得する「一枚絵」
いかがだったでしょうか。どの作品も、伝えていたのは取り組みの内容と必然性。一見、「なぜこの企業が?」と疑問を抱かせることによって、理由であるパーパスを、見る人自身に発見してもらう仕組みになっていました。
少し遠回りに感じるかもしれませんが、言葉よりも先に行動を見せることで、語る言葉が信頼される。その流れをビジュアルによってつくり出す「一枚絵」こそが、強固なパーパス・
ブランディングに必要なのではないでしょうか。
平原 依文(ひらはら・いぶん)
SMO 広報・PR / サステナビリティコンサルタント
HI合同会社 代表 / 青年版ダボス会議 One Young World 日本代表
小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。早稲田大学国際教養学部卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、デジタルマーケティングを担当。その後、多企業で広報とブランドコンサルティングを推進。2022年には自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs教育を軸に、国内外の企業や、個人に対して、一人ひとりが自分の軸を通じて輝ける、持続可能な社会のあり方やビジネス
モデルを追求する。Forbes JAPAN 2021年度「今年の顔 100人」に選出
関連記事「カンヌ・ライオンズ受賞作から見る、ブランド・パーパスの重要性」(2022年記事、旧:LEARNINGSページ)はこちら
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