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「人」と「パーパス」が起こす力(2)人を動かし、ムーブメントを起こすこと
前回の記事:「人」と「パーパス」が起こす力 (1) Woke Capitalism、そして本物の企業
人を動かすということ
こうした事例のように、「人々が集まり、彼らを動かす」ことこそが、大きな変化を起こすことができる。いわば「ムーブメントを起こす」ということだ。では、そこに必要不可欠な重要要素はなんだろうか?
それは、「人」と「パーパス」。
パーパスとは、崇高で、人々をインスパイアし、超越的なものであり、人の役に立ちたい、物事をより良くしたいという、人間の本質を突くものである。こうした企業では、製品やサービスを通じて、従業員や顧客がパーパスを実現することができる。地球を救うためであれ、困っているコミュニティを助けるためであれ、最終的には世界をより良くするというパーパスのために人々が集うのだ。
上記で紹介した事例は、ビジネスを別視点から見ることについて考えさせてくれる。ムーブメントの創造という視点で考えた時に、自分達のビジネスはどのように映るのか?従業員や顧客がそのパーパスの実現に貢献できるように企業としてできることを与えているだろうか?
パーパスを中心に、我々はどうやって、自社のプラットフォームとリソースを活用し、ムーブメントを起こしつづけることができるか?
これを追求し、実践していくことこそが、「本物」になるための鍵となるだろう。
Creating Movements ー ムーブメント創造のために
パーパスを行動に移すために、SMOが提供する「ムーブメント」というフレームワークがある。従業員がみな、パーパスに基づいて行動できるような組織を実現するには、四つの重要な事柄がある。

①「学ぶ」ことと、②「確かめる」ということ
パーパスを深く理解するためには、「学ぶ」そして「確かめる」ことが必要である。その組織が掲げるパーパスを正しく学び、共感してもらうため、それに特化した研修やワークショップの新たな導入や既存の研修の組み直しを行う。それと同時に、パーパスの浸透度合いを把握できる仕組みを社内コミュニケーションの中に組み入れる。
③「見出す」ことと、④「伝える」ということ
そして、パーパスへの強い信頼感を構築するためには、「見出す」そして「伝える」ことが不可欠だ。実際の仕事やプロジェクトをパーパスの視点で検証するワークショップや、パーパスに導かれた象徴的なプロジェクトを行い、信頼するためのエビデンスを見出す。そこで見出された、現実に起こったパーパスに基づく判断や行動を、広く社内外に共有し伝えていくことで、パーパスが本当に自分たちにとって意味のあるものとなり、新たにパーパスに基づく判断が創出されていく。このほかにも、日常的な業務の中にパーパスを取り込めるような取り組みを多く実装していく。
これらの取り組みには終わりはない。この、学ぶ(Undestanding)/確かめる(Measuring)/見出す(Uncovering)/伝える(Spreading)の4つのサイクルを回し続けることが、社内外に真なるムーブメントを起こし、パーパスに裏打ちされたブランド価値の創出につながっていくのだ。
事例:ムーブメントを起こすということ
KPMG(監査、税務、アドバイザリーに関わるサービスとソリューションを提供しているグローバル規模のコンサルティング・ファーム)
パーパスにおける有名なKPMGの事例を、ムーブメントのレンズを通し、具体的な施策を交えて紹介しよう。

KPMGは2014年、それまでの保守的な文化を、イノベーティブな文化に切り替えようとパーパス策定に取り組んだ。自社の歴史を掘り下げ、数百人の社員とのヒアリングをした結果、「Inspire confidence and empower change」(社会に信頼を、変革に力を)というパーパスが制定された。
パーパスを起点とした社内ムーブメント
ここからが興味深い。同社は社員を巻き込むべく、社内浸透に焦点を当てた具体的施策として、社内の人間のみならず外部でもアクセスできるKPMGパーパス特設サイトを設置した。そのサイトを通じて、社員はビデオや記事などのコンテンツから同社のパーパスの定義の過程や経緯を理解できるようになっている。
その後、個々の社員のパーパス解釈を促進するため「10,000 Stories Challenge」というキャンペーンを社内で展開した。27,000人の従業員に対し、1万枚のポスターを作成するもので、1万枚目標が達成されると、従業員には二日間の有給が追加で付与される。
その仕組みを詳しく見てみよう。KPMGが配布したウェブアプリから従業員がポスターを作る手順はこうだ。:
1. 用意された複数の背景から気に入ったものを選ぶ。
2. 「What do you do at KPMG?(KPMGでやっていることは?)」という質問に回答する(つまり、従業員に自分は何をしてKPMGのパーパス実現に貢献しているか向き合わせる)。
3. 回答項目は「ヘッドライン」と「あなたのストーリー」の2つ。
4.「ヘッドライン」では、「What do you do at KPMG?」に対する端的な答えになる。例えば、テクノロジーのコンサルタントであれば、「テクノロジー改革」を記入。
5. 「あなたのストーリー」は、上記の「ヘッドライン」を説明する箇所。自分の仕事がどのようなインパクトを作り出し、どのように価値をもたらすのかを具体的に書き出す。
6. 最後に、自分やチームの写真をアップロードする(このステップはオプション)。
7. これでポスターが完成、送信されると、アプリ内に他の人の送信済みポスターの一覧が表示され、閲覧できる。
半年にわたり、なんと4万枚以上が提出された。その中で厳選され、ブラッシュアップされたポスターは、社外用キャンペーンでも使われた。
キャンペーンの結果
この社内キャンペーンを含む浸透施策に関する社内事後調査では、社員自身の仕事へのプライドが向上し、エンゲージメントも高まったことが分かった。その結果、米Fortune誌の「Best Companies to Work For」ランキング(働きたい企業ランキング)では31位から12位に飛躍したという。
この調査にはもう一つ印象的な知見がある。自社を素晴らしい職場だと考えるかどうかの回答で、パーパスを推進しないリーダーのもとでは6割であったのに対し、パーパスを推進するリーダーの下にいる社員は9割が自社を素晴らしい職場だと回答したこととが分かった。上司のパーパス推進の積極度は、従業員のマインドセットと忠誠心に大きく影響することが分かる。
KPMGの事例はなぜ優れているのか
KPMGの事例には重要な学びがある。それをSMOの「ムーブメント」フレームワークで説明しよう。KPMGのキャンペーンは、「学ぶ」、「見出す」、「伝える」を達成する、効果的かつ効率の良い取り組みであると考察できる。

一体感が生まれるコツ
そして、二日間の有給というインセンティブを取り入れた全社イベントにすることで、一大イベントとして、参加モチベーションと一体感が作り出されたことも一つの成功要因であった。
「学ぶ」「確かめる」「見出す」「伝える」について、それぞれ個別で施策を考えて実施することも可能ではある。しかしKPMGのこの事例では、あらゆる施策と要素を組み合わせ、特に「学ぶ」「見出す」「伝える」を意識して、効率的で一貫性のあるキャンペーンに仕上げることに成功した。ここに、この事例の重要な学びがある。
引用
“Woke Corporate Capitalism.” The Heritage Foundation,
https://www.heritage.org/progressivism/heritage-explains/woke-corporate-capitalism.
If We Want More Companies like Patagonia, We Need Laws to Enforce It. https://www.fastcompany.com/90560496/patagonia-ben-jerry-bcorp-woke-capitalism.
“Method.” Odysseus Arms, https://www.o-arms.com/vault-method.
"Marketplace 2009/Corporate Profiles; Method Products Inc." Chain Drug Review, https://www.thefreelibrary.com/Chain+Drug+Review/2009/June/29-p54860.
"About." Method, https://methodproducts.com.
Kurtz, Rod. “A Soap Maker Sought Compatibility in a Merger Partner.” The New York Times, The New York Times, 16 Jan. 2013, https://www.nytimes.com/2013/01/17/business/smallbusiness/a-founder-of-the-soap-maker-method-discusses-its-sale.html.
Tay, Reuel Eugene. “I Heart Ben & Jerry's Free Cone Day!” City News,
https://www.citynews.sg/2009/04/30/i-heart-ben-jerrys-free-cone-day/.
“About Ben & Jerry's.” Ben & Jerry's, https://www.benjerry.com/about-us.
“History.” Warby Parker, https://www.warbyparker.com/history.
KPMGGo. “KPMG We Shape History.” YouTube, YouTube, 10 Dec. 2014, https://www.youtube.com/watch?v=JZmZoURcmXI&t=3s.
<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2023」からの抜粋です。
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