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  • 執筆者の写真SMO TOKYO20xx Team

「なぜ?」から始まるフィンランド教育

更新日:2023年9月5日

フィンランドと日本で、教育を中心に働き方や家族のあり方のコンサルティングを行う、ニーロ・ケルビネンさんに、国際学力調査(PISA)でも上位に入り、生活満足度も高いフィンランドの教育について、お話を伺いました。 


(インタビュー:SMO 齊藤三希子)


 

<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2020」からの抜粋です。タブロイド誌全編及び最新版の全編は、こちらよりダウンロードいただけます>



齊藤:まずは、ニーロさんが活動されている内容をお聞かせいただけますか?


ニーロ:簡単に言うと、日本とフィンランドの架け橋になりたいと思っています。仕事というよりも、立場として。今は、教育エキスパートであり、他の分野のコンサルタントでもあり、いろんな方とお話ししています。日本とフィンランドの両方にクライアントがいます。



齊藤:教育以外にも様々なことに取り組まれているのでしょうか?


ニーロ:最近のテーマとしては、子育てがかなり重要になっていますね。子育てとシティデザイン、つまりまちづくりですね。それが、教育の次に大きくなっているテーマだと思います。


齊藤:それは、日本でですか?それともフィンランドで?


ニーロ:日本です。つい先日も、どうすれば子育てとスモールビジネスの関係を良くすることができるのかというパネルディスカッションに登壇させていただきました。


齊藤:フィンランドをはじめとする北欧は、仕事とプライベートのバランスを上手に取っているイメージがあるのですが、それを日本にも取り入れたいという企業や個人の方が多いということでしょうか?


ニーロ:多くなっていますね。日本は今、様々な面で大きく変わろうとしていると感じています。仕事でも、家庭生活でも、ジェンダー平等でも。というのも、10年前は高校生に「夢は何ですか?」と聞いても、おそらく誰も答えられなかった。夢とか、そんなこと考えてはダメというか。彼らの中に、まじめでなくてはいけないという考えがあったのだと思います。でも最近では、企業したいとか、お父さんやお母さんが全くやっていないことをやってみたいと話す子が出てきた。また、日本の人事関係者と話すと、「社員一人ひとりの可能性を実現するために、フィンランドでは具体的にどのようなことを行なっているのですか?」と聞かれることが多いですね。採用でも研修でもそうですが、「良い人材が会社に残るようにするためにはどうすべきか」、「どうしたらそのような組織を作ることができるのか」と、フィンラインドへ視察に来るんです。これまではこういうことってあまりありませんでしたよね。


齊藤:「良い人材が残る組織」とは、フィンランドではどのように作られているのでしょうか?


ニーロ:ワークケイパビリティというものはよくご存知だと思いますが、フィンランドでは点数をつけるような質問をあまり使いません。面接の際は、「友人や元同僚が、あなたに対して最もひどいことを言うとしたら何だと思いますか?」といった質問をします。「仕事が遅い」と答えたとしたら、「なぜそのように言われると思いますか?」「それが事実ですか?」と聞きます。ですので、自分のことをしっかり知っておかなくてはならない。自分の良さとか自分のメンタリティとか。そうすることで、相手の気持ちを理解するスキル、つまりエモーショナルインテリジェンス(以下EQ)がなければ、この仕事は難しいのではないか、という判断をすることができます。


齊藤:なるほど。フィンランドのEQが発達した方が多いのでしょうか?


ニーロ:多いわけではないかもしれないですが、フィンランドはすごく小さな国です。そのため、人が少なく、人を入れ替えるということが容易ではありません。だからこそ、会社としてそういう人を育てたいと思っているんです。会社はそれをエンプロイヤーブランディングだと考えていて、「この会社ではこういうことができますが、あなただからこそ与えられる社会的なインパクトは何だと思いますか?」と聞くんです。かなり深い質問ですよね。


齊藤:深いですね。日本では、もちろんパーパスを持っている会社も多いのでしょうが、それを明文化しているところがまだ少ないんです。今後、より重要になっていくのかなとは思っているんですけれども。


ニーロ:より重要になると思います。


齊藤:お話を伺っていると、フィンランドの会社や個人は、「何のためにこの仕事をするのか?」や「この企業はどんなインパクトを社会に与えられるのか?」ということを常に考えられているように思います。


ニーロ:そうですね。ミレニアル世代は、自分の職を考える際に、あまり給料のことを優先して考えていないようです。


齊藤:そう!調査で出ていましたね。


ニーロ:「自分のスキルを活かせるか?」だったり「スキルをさらに極めることはできるか?」というのが最も大事になっているという調査が出ています。私もそうです。


齊藤:フィンランドは昔から優れた教育のイメージがあるのですが、ここ数年でまた変わってきたと感じるところはありますか?


ニーロ:最近いろいろな先生と話しているのですが、フィンランドの先生たちは「政府にちょっと落ち着いて欲しい」と言っています。70年代に、フィンランドで教育に関する大きな変化が起きて、今のシステムができました。しかし、アスリート教育を改善しようという話が上がった時、実は反対する声が大きかったんです。アクティブラーニングやプロジェクトペースラーニングは、先生にとって明らかに大変ですから。けれど、当時の政府は、「今は最も優秀な人に先生になって欲しい。これまでなかったような教え方をしないといけない」と押し通した。現在は、「PISAの結果だけでなく、『これからどうなって欲しいのか』を考えて様々なプランニングをしましょう」という話が現場の人から出ています。日本でも同じことを考えているのではないかと思いますよ。2019年の4月にコアカリキュラムが変わり、フィンランドにもないような言葉が出ているんです。それは、「主体的、対話的で深い学び」です。こうした変化に対して最も焦るのは、もちろん子どもたちではなく、今の先生たちです。素晴らしいということは誰もが知っているけれども、実行するのは難しい。フィンランドも、様々なプログラムを実践するために、試行錯誤を重ねて戦略を立て、準備をしてきました。「こういう未来になって欲しい」という考えがあるのであれば、それは子どもたちだけではなく、大人たちにもそのための道筋を示さないといけない。


齊藤:それは、今までは、できていたということですか?


ニーロ:はい。だからこそ、フィンランドは小さな国にもかかわらず、こうして他国に注目されてきたのではないでしょうか。一方で私は、フィンランド人に日本の学校をもっと視察に来て欲しいと思っています。日本のクラスの人数はフィンランド比べると多い。フィンランドのクラスは、大体18人から25人で、25人だとかなり多い方なんです。つまり、先生たちが子ども一人ひとりを見る余裕があるんです。だからこそ、フィンランド人に、日本の先生たちを見て欲しいと思います。あれほど多くに子どもたちに対して、限られた時間をいかにして効果的に使っているのか。本当に素晴らしいですよね。あとは、子どもたちの掃除ですかね。


齊藤:独特ですよね。子どもたちによる掃除を見て欲しいのはなぜですか?


ニーロ:責任感を感じられるでしょ?学校はみんなの場所です。先生たちだけではなく、子どもたちのものでもあるんです。だから先生たちだけが頑張るのではなく、子どもたちも自らケアしないといけない。それが、フィンランドの先生たちが感じるべきことなのではないかと思います。


齊藤:すごく面白いです。少し話が戻りますが、働き方と子育てについて、フィンランドでは具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか?ワークライフバランスというか。


ニーロ:ライフデザインですね。私の場合、自分の会社のCEOをしながら、結婚して子どもが2人いて、大学院ではまだ論文を書いている途中です。「どうやってマネジメントしているんですか?」とよく聞かれますが、カレンダーのテトリスです。プレイヤーは自分だけじゃないから、コミュニケーションをしっかり取らないとテトリスの場面も潰れるんですよ。だから、私が単なる報告として1週間の予定を奥さんに伝えても、奥さんは「え、私も仕事してるんだけど?あなたも親でしょ?私だってずっと送り迎えはできないよ」となりますよね。私の奥さんは先生をしているのですが、私も過去に、自分の仕事は彼女の仕事よりも重要だと思ってしまったことがあるんです。子供が病気になったと子ども園から電話をもらって、「ニーロさんのお子さんが熱を出してしまったので迎えに来てください。」と。その時、私は「妻に電話していただけませんか?」と言ってしまったんです。すると、「電話してみたんですけど、出られませんでした。」と言われ、「わかりました。」と。迎えに行く途中で奥さんに電話をして、「やっぱり行けないので迎えに行ってくれない?」と言ったんです。すると、「ちょっと待って、なんで電話してきたの?もう外に出ているんでしょ?もう向かってるんじゃないの?」と。私が「だけど仕事が…」と言うと、彼女も「私も仕事してるでしょ。」と。そういうことが何回もあって、それで私も気づいたんです。


齊藤:対等であると。


ニーロ:そう。だから、自分だけがカレンダーを埋めていくと全て崩れるんです。コミュニケーションが大切です。


齊藤:2人で一緒にカレンダーを埋めていく。組織の中の心理的安全は結構言われていますが、夫婦間でも必要ということですね。


ニーロ:そうなんです。家庭も組織も、それほど違わないかなと思います。


齊藤:特に日本だと「言わなくてもわかる」という文化があり、家庭だと尚更そうなってしまうところがありますね。


ニーロ:個人的に、私はそれをダメだとは思っていません。なぜなら、空気を読むというのは才能で、すごく良いことです。だって、EQ+空気を読める人ってすごいですよ。


齊藤:それも含めて、本質的な「なぜ?」から始まるコミュニケーションを取ることが大事だということですね。素晴らしいお話をありがとうございました。



Niilo Kervinen(ニーロ・ケルビネン)

1989年フィンランド、ロヴァニエミ生まれ。

ヘルシンキ在住。

教育学や社会学を中心に学び、現在は

大学院にて社会心理学を研究中。

メンターや家族友人など、他者の支え

(Social support)を通して、いかに人生が

豊かで幸せなものとなるかを研究テーマに掲げる。

2010年から約2年間日本に居住。

日本語や日本の文化の奥深さに惹かれ、

現在はコンサルタントとして日芬双方で活動。

起業家でもあり、フィンランド教育をベースに社会的な

問題解決の糸口を探るワークショップなども行う。

プライベートでは二児の父。




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